第14章 両親
「父様!母様!どこっ?」
目を開けると白い世界で、誰もいなかった。
「父様!!母様!!」
必死で探す。
「私も…私も連れてって……!」
涙が溢れる。
『まだ、頑張れるでしょう。光希は頑張り屋さんだから』
『こっちに来るのはまだ早い』
声だけが聞こえる。
「やだ…頑張れない……側にいてよ…」
座り込んだ光希の膝に、ぽたりぽたりと涙が落ちる。
『お前の側には、信頼できる人がいる。俺たちは安心してるよ』
『あなたは、もう大丈夫。私たちを思い出せたのがその証拠』
「信頼できる、人……」
『良かったね……。光希。大切にしなさい』
『俺たちが思っていた子とは別の子だったな……』
「父様…母様……」
『早く起きてやれ。ずっと待ってる』
『大遅刻よ』
「待って、まだ……」
そこで、ふっと夢は終わる。
『大丈夫、大丈夫……』
『よしよし…いい子だ……』
最後に二人の声が聞こえた。
善逸は光希の部屋で外を見ていた。
外は大雨だ。遠くで雷が鳴っている。
ぼーっと雷鳴を聞いていた。
そこへ、小さな声。二十日間、ひたすら信じて待ち続けた声がする。
「かみ、なり……き、こ…、える……」
ばっと振り向く善逸。
光希と目が合う。
身体が上手く動かせないのは、骨折がまだ治ってないからだろうか。
現実かどうか瞬時に判断できないのは、何度もこの手の夢にぬか喜びさせられ続けたからだろうか。
目を開けている光希がぼやけて見えるのは何故だろうか。
善逸は震えながら光希に近付く。
顔にかかっている髪を、指で耳にかけてやる。
そのままそっと頬に触れる。温かい。
「光希……」
愛しいその名を呼びかける。
「……ぜん…い、つ…」
愛しい声で名を呼ばれ、善逸は声をあげて泣いた。頭を抱きしめて、わんわん泣いた。
「おまっ、起きるの、遅すぎ、だっ」
「ごめん…」
「起きないのかと、思っ…うっ…」
「ごめ、ん…」
「良かった…良かったあ…光希…うっ、ひっく…」
すがり付いて泣く善逸にゆっくり手を伸ばす。
「……よしよし、大丈夫…」
背中を撫でる。
いつも彼にそうしてあげていたように。
かつて自分が両親にしてもらったように。