第14章 両親
光希は夢を見ていた。
優しい顔の男性と、小柄で美しい女性。
光希の手を繋いで歩いている。手の温かさが安心を伝えてくる。
二人と手を繋ぐ光希はとても小さい。長い髪を二つに括り、ピンク色の着物を着ている。
「父様、母様、私、怖い夢を見てたの」
「そうなのか?」
「どんな?」
「……よく思い出せない。でもね、父様と母様が…ううん、なんでも、ない」
「ふふ、大丈夫よ、光希」
そう言って母は歩いていた足を止め、光希を抱きしめ、父は頭を撫でた。
場面が変わって、家の中になる。
「あれっ、ここ……」
「どうした光希、お前の家だぞ」
父が笑いながら話しかける。目の前にはほかほかと湯気をたてているご飯。
小さな左手で箸を持つ光希。
「光希、箸は右よ」
母がすっと隣にきて、箸を持ち替えさせる。
「こっち、やだ。上手にできない」
「出来るよ、光希なら。お前は何でも出来るんだ…頑張れば、どんなことでも。そして、頑張ったことはきっと役に立つから」
ぷうっと頬を膨らます光希。
右手で箸を持つ。カチカチと動かしたいのだが、上手く使えない。しかし、苛々しながらも持ち替えたりせずに右手で箸を使う。
ぷるぷると震えているが、ゆっくり煮物を箸ではさみ、口へ運ぶ。
「上手。凄いわ」
母が笑う。嬉しくて光希も笑う。
煮物の味はわからなかったが、頭が勝手に美味しいと感じた。
夜に切り替わる。
布団の中、光希は震えていた。外は雷が鳴っている。雨と風も強い。
「光希、大丈夫よ」
「いや!雷嫌いっ!大嫌いっ!!うぇぇぇん……」
「よしよし」
母が布団の上から光希を擦る。
「おいで。見に行こう」
「やだ、怖い!」
「じゃあ、母さん一人で見にいこ」
母は布団から起き上がり、寝間着のまま窓辺へ近付く。
「や!母様、一人にしないで!」
光希も布団から出て母に駆け寄る。
母は窓辺の椅子に腰掛け、外を見る。
光希は母の膝に乗り、抱き付いて胸元に顔を埋めた。
「よしよし。大丈夫、大丈夫」
母が光希の背中をトントンと優しく叩く。
窓の外から雷の音が聞こえる……