• テキストサイズ

雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第14章 両親


善逸は泣きながら、ぐらりと体をよろめかす。
後藤が慌てて抱き止める。


「我妻、……部屋に戻るぞ」
「うう……はい……」

善逸は泣きながら後藤に背負われる。
背中でシクシクと泣く善逸に後藤が話しかける。


「聞いたことあんだけどよ。人は意識なくても声は聴こえるらしいんだわ。だから、呼びかけてやんな。お前声でかくてうるせーし、光希ちゃんに聞こえるかもしんねーぞ」

「うっ、うっ、ありがとう、ございます」
「また、連れてってやるよ」
「お願いします」

ずびっと、鼻水をすすった善逸が続ける。

「あの……光希ちゃんって呼ぶの、やめてもらえますか?」
「は?何でだよっ!」
「なんか馴れ馴れしくて腹立つんで」
「何でお前にそんなこと言われなきゃなんねぇんだよっ!」
「あいつ、俺の女なんで」
「いや、だとしてもいいだろ別に呼び名くらい!好きにさせろや!」
「駄目です」
「お前っ!自分の立場わかってんのか?!俺に背負われてんだぞ!」
「それは話が別でしょ」

ぎゃあぎゃあ叫ぶ後藤と共に善逸は自室へと戻っていった。




それから毎日善逸は光希の部屋に行き、帰ってこい、生きろ、と呼びかけ続けた。

十日程にすると松葉杖を使えば移動ができるようになり、一人で部屋に行くようになった。後藤にお礼を言って、お役御免とした。


「光希、いい天気だぞ」

今日も返事はない。

「河原でも散歩したいな」

二人でいるのに静かな部屋。

「また喫茶店行こうぜ。今度は俺の奢りで。しべりあってのが食いたいな。あ、珈琲は勘弁してくれ」

善逸は光希に近付き、顔を覗き込む。

「……接吻禁止なんだってよ。感染症?かなんかで。よくわからんけど。酷いよな。こんなに…そばにいるのに。なぁ……」

人差し指を光希の唇に近付ける。触れるぎりぎりで止め、指を自分の唇にそっと付ける。

「元気になったら、めちゃめちゃ口付けしてやるからな」

善逸は眉毛を下げて笑いながら松葉杖を持ち、よっと言いながら立ち上がる。


「じゃ、また明日くるからな」

初日こそ泣いたものの、それ以来涙を封印している善逸。

恋人も親友も誰も目覚めない。
とてつもない不安の中、一人で戦っていた。


……上弦との戦いよりキツイぜ

深くため息をついた。

/ 1083ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp