第14章 両親
廊下に出たアオイに、後藤が聞く。
「なあ、アオイちゃん。もしかしてあいつらって……」
「……二人とも公にはしてないので、他言無用に願います。
少ししたら善逸さんをまた迎えに行ってあげてください」
「……おう」
部屋の中、善逸は静かな光希を見つめる。
少女は横向きに寝ているので、善逸側からは光希の顔が見えない。
生きてる気配はするが、あまりにも弱い。
耳の良い善逸にはそれが痛い程、顕著にわかった。
「おい、光希。起きろ」
返事がない。
「いつまで寝てんの」
返事がない。
「お前、寝起きいいのに、どした」
返事がない。
「……襲うぞ、こら」
返事がない。
「おい……」
返事が、ない。
善逸は光希に近寄ろうと前に重心をかける。
骨折している足に体重がかかり、激痛が走る。
「ぐうっ……」と声を上げ、椅子から転げ落ちる。痛みで、一緒うずくまった。
ガタンと大きな音がしたので、慌てて後藤が部屋に飛び込む。善逸は腕だけでベッドに這いより、ベッドのへりに手をかけて登ろうとしていた。呼吸はぜーぜーと荒く、目には涙を浮かべている。
二人が恋仲でなかったら警察通報案件である。
手助けしていいものか迷いながら、後藤が手伝う。
「光希っ、光希……そっちに行くな。帰ってこいっ…!」
善逸はボロボロと涙を零していた。
溢れる涙を拭いもせずに、光希に必死で呼びかける。
「……こっちだ、こっちに帰ってこい。俺ん所へ、ちゃんと帰ってくるんだ。お願いだから……」
後藤も何故か目頭が熱くなる。独身二十三歳は、場違いを自覚しながら、善逸の身体を支える。
「………うっ、くっ、光希……生きてくれよ…っ、頼むよ……お前が居ないと、俺は…駄目なんだよ……」
善逸は腕で身体を支え、上から光希の顔を覗き込む。血の気のない、白い顔だった。
「こんな時でも、お前は…本当にきれいだな……」
善逸は泣きながら、光希の寝顔に見惚れた。