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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第12章 逢瀬


「あいつ、ぶっ殺してやる」

ずびっと鼻をすすり、涙が落ち着いた善逸が物騒なことを言い出す。

「いや、もう死んだし」
「それでも、殺す。俺が、この手でな」
「一応、育ててくれた恩人だぞ」
「恩人なもんか。極悪人だろ。すんげえしんどい地獄に落ちとけ」

ははは、と赤い目をして善逸の腕の中で光希が笑う。

「なあ、光希」
「何?」

「あのさ……お前、ちっとも汚れてなんかないからな」
「………」
「気にすることないから」
「……うん」
「俺は、全然こんなことで嫌いになったりしない。むしろ、……どんどん好きになるくらいだ」
「……ありがと」

光希は善逸の胸に顔を擦り寄せる。


「光希の『初めて』は、俺がちゃんともらうから。……覚悟しといて」

善逸は光希の顎を持ち上げ、口付けをする。
優しくて安心する口付け。


「はい。覚悟しとく。いつでもどうぞ」

光希が頬を赤らめて微笑んだ。


過去の出来事を無かったことにして、『初めて』だと言ってくれる善逸の優しさに感謝する。

心の傷と記憶は消えないけど、この人がいつかきっと上書きをしてくれるんだろうなと思う。


「光希……、そんなこと言うとまた襲うぞ」
「別に、いいよ」
「おい……」
「もう話してすっきりしたもん」

「駄目。お前、可愛すぎ」
「それほどでも」
「……ちょ、ちょっと離れて。本当にやばいから」


顔を赤くした善逸は、光希を離して自分の膝を抱える。ふー…と呼吸をして心と身体を落ち着けているようだ。

流石にこんなところで迫るわけにはいかない。
気軽に「いいよ」などと言ってくるこの娘が恨めしい。


「帰ろっか」

にこりと笑って光希が言う。

「……そうだな」

不本意だが、これ以上側にいると本当にやばい。善逸も駄々をこねずに納得する。十六歳の理性など、綿ぼこりのように吹き飛んでしまう。


光希もそれがわかっているから近付いてこない。場所が整っていない今、ここにいても善逸を我慢させるだけになって可哀想だ。


もうすぐ夕方。
どのみち帰らないといけない。

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