第12章 逢瀬
光希の「大旦那さん」という発言で全てを理解した善逸。奥歯をギリッと噛みしめる。口の中で血の味がする。
怒りと悔しさと不甲斐なさで、血が逆流しそうだった。
光希をきつく抱きしめる。
「ごめんっ!ごめん…ごめんな光希……」
「何で善逸が謝るんだ」
「あの時か……あの時なんだよな。くそっ…俺は何も出来なかった……何もわかってなかった……すぐ側にいたのに、俺はっ…何やってんだ、ちっくしょう……!」
「何も出来なくて当然だろ。俺たち子どもだったし……俺だって何されてるのか実際のところよくわかってなかったんだ」
「光希…、光希っ……!ちくしょう、何で守れなかったんだ、俺はっ……」
善逸の目から涙が溢れる。
「ただ早く終われっていつも思ってた。それだけを願って、耐えてた。心が凍るようだった」
「うん…うん…一人でよく頑張ったな……」
「いや、一人じゃない。お前がいたから」
「え……」
「お前、いつも布団に入ってきてくれただろ。あれで凍った心を溶かしてたんだと思う。あちこち記憶は飛んでるが、布団の暖かさだけはしっかり覚えてる。あれがなかったら、俺は……死んでいたかもしれない………」
光希は善逸の首に手を回し、すがりつくように抱きしめた。
「ありがとうな、善逸……ありがとう」
そう言って、光希はぽろぽろと涙を流した。
「……うっ、くっ、……ごめんなっ、気付いてやれなくて、ごめんな。辛かったな、誰にも言えずに…ごめん、光希。ごめん……」
泣きながら謝罪を繰り返す善逸。
光希はお前のせいじゃない、と肩をぽんぽんと叩く。
二人は木の上でしっかりと抱き合った。