第12章 逢瀬
俯いて、胸元を押さえたまま黙り込む光希。青ざめる善逸。
「ほ、本当にごめん!俺、そんなつもりじゃ……」
暴走しかけた事を謝るが、返事をしない光希。
「あ、あの…光希……?」
善逸が手を伸ばすとビクッと身体を強ばらせる光希。怯えた表情をしていた。
その態度が相当ショックだったようで、善逸も泣きそうな顔になる。
「本当にごめん、光希。俺のこと、嫌いにならないで、お願いだから。頼むから」
光希から離れて触らないようにしながら、必死でそう訴えかける善逸。
「………違う」
光希が呟いた。
「え?」
「違う……違うんだ…嫌われるのは、俺の方だ。俺は、善逸にふさわしくないから……」
「光希……?どうした?何を言ってるんだ?」
「ずっと言わなきゃって…でも……」
光希は言葉が完全に戻っていることにも気付いていない様子で、相当混乱していることがわかる。目に涙を溜め、震えている。
尋常じゃない様子に、これは襲われかけたからじゃないな、と思う。
「………光希、触ってもいいか?」
善逸が落ち着かせる様に聞く。
光希が小さく頷く。
そっと手を伸ばす善逸。震える肩に手が届くとビクッとする光希。でも善逸は今度は手を引かずにそのまま肩を優しく自分の方へ引き寄せ、抱きしめる。
「ごめんな、光希。怖かったよな。もう大丈夫だから、ここに居て。もうあんなことしないから。お願い」
「……うん」
「ずっと言わなきゃ、って、何を?」
「………」
「俺にふさわしくないって、どういうこと?」
「………」
光希は善逸の胸の中でガタガタと震えていて、何も話せない。
「……お前は俺をみくびってんなぁ」
「………」
「俺には何のことかさっぱりわかんないけど、何を話されたってお前を…光希を嫌うことなんて絶対に無いんだぞ」
「………」
「何年一緒に過ごしたと思ってる」
「………」
「舐めんなよ」
「……………」
返事はないが、光希の音がだんだん落ち着いてきているのが解る。善逸は抱きしめたまま、光希の言葉を待った。