第3章 藤の花の家で
「カァアーーーッ休息!!休息!!」
藤の花の家紋が入った屋敷の前に着くと、炭治郎の鴉が四人に告げた。
――…やっと、休める
お化けと騒ぐ善逸を叱る炭治郎を横目に見ながら、ふぅ、と安堵の溜息をつく。
休める、と思った瞬間、身体に一気にのしかかる大きな疲労。左手が猛烈に痛み始め、冷や汗が流れた。光希はご飯を断り、男子とは違う部屋を用意されて早々に眠りについた。
次の日医者が来るまで、昏昏と眠り続けたのだった。
「まさか、全員骨折しているとはな……」
天井を見ながら炭治郎が呟く。
男子は全員肋を骨折。やたら痛かった光希の左手も、見事に折れていた。ついでに薬指脱臼。通りで痛いわけだ、と逆に納得する光希だった。今は添え木と包帯で、指先まで固定されている。
「光希、お前それ、利き手じゃん……」
善逸が心配そうに聞く。
「まあな。でも俺は箸と筆は右だから、大丈夫だよ。問題ない」
光希は包帯ぐるぐる巻きになった手を見る。まあ確かに不便っちゃ不便だなぁ、と思いながら。
「光希は左利きなのか。何か困った事があったら手伝うからな。遠慮なく言ってくれ」
「いや、肋骨折れてる方がやばいだろ。俺は片手は使えるから大丈夫だよ。ありがとうな、炭治郎。むしろ逆になんかあったら声かけてくれ」
実際、片手で困るのは入浴や着替えである。
しかしそれを彼に頼む訳にはいかない。
そこへ「お食事をお持ちしました」とお婆さんから声がかかる。
光希がしっかりとお礼を言って受け取り、全員一緒にご飯を食べることにした。
伊之助が挑発して炭治郎のおかずを取る。
しかし全くその挑発に乗ることのない炭治郎は、自分のおかずを差し出す対応をする。長男節と菩薩の微笑みが炸裂した。
「伊之助、これもやるよ」
「ああ?」
まだ食事に手を付けていない光希は、伊之助の椀に椎茸や人参などのおかずをぽんぽんと入れる。
「おい光希、お前昨日も食ってねぇじゃん。ちゃんと食えよ」
「いや、多いだろこれ。食べ切れないよ」
「……本当、飯食わねぇよな、お前」
そう話す善逸の茶碗には光希の茶碗から米がごっそりと移動し、おかずもぽんと一つ入れられる。炭治郎の椀にもおかずが入る。