第2章 もしかしてお前は…
「はぁー?お前女なのか?」
伊之助が光希に絡む。不思議そうに顔を覗き込んでいる。
「そうだよ」
「何で男の振りしてんだ」
「男の振りをしているわけじゃない。普通に振る舞っているだけだ。俺からしたら女みたいな喋り方をする方が変な感じがする」
「男か女か良くわからん奴だなお前」
「どっちかわかんなくても別にいいだろ。俺は俺だし」
「ふぅーん、……なんかよくわかんねぇ」
伊之助はわからんを繰り返すが「確かにお前、腕ほっせえしな」と一応納得はしたようだ。
「働いてた宿の若旦那に、女だと解るといろいろ面倒な事になるから、男みたいにしとけって言われて。で、気付いたらこんな感じになってた。そこから変えてないだけだ」
それは、善逸も聞いたことない話だった。彼が家に来たときはもう光希は今の感じだったから。
「そうか、なるほどな。
俺は今の光希の感じも接しやすくて好きだから、そのままでいいんじゃないか?」
好きとか言う言葉をさらりと使う炭治郎。
光希に対して完璧に男友達として接していることが伺える。
「ありがと、炭治郎」
にこりと微笑む光希。
そのまま後ろの善逸を振り返る。
「あ、ちゃんと付いてきてた」
「…何がだよ」
「ずっと喋んないから、居ないのかと思った」
ひひひ、と笑う光希。その顔は少年そのものだ。
「善逸、身体が痛いのか?大丈夫か?」
炭治郎が心配そうに善逸の隣に来る。
「……大丈夫だ」
善逸は、そう答える。
何だかおかしな善逸の態度に首をかしげる光希。まさか、自分のせいだとはこれっぽっちも思っていない。
―――…こいつ、女であることを隠していた訳じゃなかったのか。じゃあやっぱり俺が風呂での事をすっかり忘れてて、その後気付かずにここまで来たってことか。勝手に男だと思い込んで……
そんなことってあるか?
女の子大好きなこの俺が?
「何、考えこんでんだよ」
「………」
「おい、善逸」
「………」
「……出っ歯野郎」
「誰か出っ歯だこら」
「聞こえてんじゃねえか」と笑いながらまた前を向いて歩き出す光希。
ああ、そうだ。こいつのこの態度、女とは思えないもんな。微塵も。
気付かなかったのは、俺のせいじゃない。うん。