第80章 輝く未来
「チュン太郎!善治郎!!もし光希を連れていくってんなら、……俺も連れてってくれ!」
光希が手を伸ばしているその先を見ながら善逸が言う。
「頼むから。お願いだよ。俺も…一緒に……」
そう言いながら涙があふれる。
光希の手を両手で握り、額をつけて祈るように願う。
「一人になるのは、嫌だよ。嫌だ……」
嗚咽をもらしながら泣く善逸。
でも。
そこで思うのはあかりの笑顔。
隣で寝ている善治。
――…俺は、死ねない
もう、自分は独りじゃない。
守るべき大切な者がいる。
自分の意志でこの命をどうこうすることはもう出来ないのだ。
「……くっ」
善逸は奥歯をギリリと噛みしめる。
「光希、お前もだ。俺の子は、お前の子だ。しっかり育てなきゃいけない。俺たち二人でまだまだこの子達を導かなきゃならないんだ。……今すぐ帰ってこい。お前の命ももう、お前だけのもんじゃないはずだ。そんなガキみたいな我儘、流石にもう言わねえよな?そうだろ?」
善逸は呼吸を整える。
「なあ……、もう少し、一緒にいさせてよ。小さいこの子たちに、母親を与えてよ。俺たちみたいな思いをさせないでくれ……」
ブツブツと呟く善逸。
混乱しているのか、だんだんと自分が何を言っているのかわからなくなってきた。
ふいに、握っていた光希の手がピクッと動いた。光希の心音が変わる。
彼女の目がゆっくりと開かれる。先程のようにトロンとしておらず、意志を持った目だった。
善逸を見つけて、しっかりと彼を見る。
「善逸……、また泣いてる」
「…………あのね。誰のせいだと思ってんの。戻ってくるのが遅いの。今まで俺が流してきた涙の大半は、お前のせいだかんな」
「そうだな……ごめん。でも『朝鳥の来ればうれしき日和かな』だよ」
善逸の耳元を、二つの羽音が通り抜けていった。
「何が、朝鳥だ。真夜中だっつの、馬鹿」
善逸は光希にすがるように抱きついて、ぼろぼろと涙をこぼす。光希は彼の黄色い頭に手を乗せて、よしよしと撫でてやった。
「おかえり、光希」
「うん……、ただいま、善逸」
光希のぬくもりをその腕に抱きながら、その確かな命の鼓動に耳を澄ませた―――