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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第80章 輝く未来


―――その夜は静かだった


夜更けの病室。
善逸はふと目が覚める。

何かに呼ばれた気がして、ゆっくりと身体を起こした。


善治はすやすやと寝ている。
そっと近付いて呼吸を確認する。
鮮やかな黄色の着物がお腹の辺りでちゃんと規則正しく上下に動いていて、善逸は安心した。

善治に呼ばれたわけじゃない。


ならば…――
 
善逸は光希を見るが、こちらも眠っている。


善逸は病室のカーテンを開けて外を見た。
新月なのか、それとも雲がかかっているのか、月は見えない。

なんだか目が覚めてしまったので、暗い空を窓ガラス越しに見上げながら小さな声で歌う。


 月の見えない夜の闇
 あなたと紡ぐ 愛のうた

 求めるものはただ一つ
 あなたと共に いつまでも

 行かないで そばにいて
 大丈夫 そばにいる

 二人で繋いだこれまでを
 これからに変えて

 わたしだけのあなたを
 今は見えない 月の光に託して……


声を潜めて歌われる、愛の歌。
歌い終わったとき、ふと音が聞こえた気がした。


…バサッ……バサバサ……
パタパタ…パタタッ……


「え……」

善逸は小さく声を上げる。


それは、羽音。
窓は閉められているのに、二つの羽音は部屋の外から中へ、耳元をかすめていった。


数年前、善治が着ているような服を自分が着ていた時、この音を聞くたびに震え上がった。いやぁぁと泣いてぐずった。そう、あの羽音だ。
今は聞きたくてしかたなくて。でも二度と聞くことは出来ない、あの音だ。

「……チュン太郎?」

善逸は振り返る。
誰もいない。

「善治郎も……、か?」

部屋の中を見渡すが、やはり何もいない。


…………気のせい…か。疲れてるな、俺


善逸はまたぼんやりと空を見る。


するとやはり背後から聞こえる声。

『チュン』

弾かれたように、再び振り向く。


「チュン太郎?!いるの?ねえ!」

部屋を見回す。
何もいない。

「いるなら、姿見せてよ!」

善逸は病室内を探して回る。

「……善治郎と一緒に、光希に会いに来てくれたのか?」

そう呟いて、ひやりとする。


――…もしかして、光希を連れに来たのか?


ゆっくりと光希の方に目を向けた。



と。
そこには。

薄く目を開いた光希がいた。


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