第79章 命の呼吸
「あかり、寂しいときは歌をうたうんだ」
「うた……」
「ああ。俺と光希はずっとそうして辛いことや悲しいことを乗り越えてきたんだ。心が強くなれるおまじないなんだよ」
「おまじない」
「そう。……大丈夫。きっと大丈夫だから。ここで待っててくれな」
「………わかった」
「うん。いい子だ」
善逸はあかりの頭にそっと口付けを落とす。
「いってくる」
「はい」
善逸は炭治郎と伊之助に視線を送る。彼らが頷き、善逸も力強く頷く。
そのまま再び駆け出した。
あっという間に消える善逸の姿。
「足が痛くてもやっぱり速いな。流石だな、善逸は」
「あいつの唯一の取り柄だろ」
「ははは、唯一じゃないぞ。善逸は良い奴だ」
「ふんっ」
「相変わらず、光希は愛されてるな」
「それもあいつの数少ない取り柄だろ」
「ははは」
炭治郎と伊之助が振り返ると、しょんぼりと佇むあかりの姿があった。
「……あかり、泣かなかったな。偉いぞ」
「お父しゃん、かなしいから」
「善逸に心配かけたくなかったんだな?」
「うん」
「あかりは優しい子だなぁ」
炭治郎があかりの頭を撫でた。
伊之助もあかりに話しかける。
「ほら、あかり」
「わ!どんぐり!」
「ツヤツヤだろ」
「きれー……」
「明日一緒に拾いに行こうぜ」
「うん!」
二人に撫でられて、あかりに笑顔が戻る。
炭治郎は昔の光希を思い出す。
竈門家に預けられた彼女は不安を抱えながらここで過ごし、炭治郎も幼いなりに彼女を元気付けようと奮闘した。
幼い光希の姿とあかりの姿が重なる。
寂しさを堪えて笑う幼子のいじらしさに、炭治郎の目が潤んだ。
光希、頑張れよ
あかりも善逸も俺も、待ってるからな!
炭治郎は、零れそうになる涙を乱暴に指で払った。