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雷鳴に耳を傾けて【鬼滅の刃】我妻善逸

第79章 命の呼吸


休診の病院は外来患者がいないため、しんとしていた。騒がしい手術室とはうってかわって静かな廊下。善逸はあかりを背中から下ろす。
あかりが離れると途端に背中が寒くなった。あかりを支えていた布で彼女の小さな体を包む。

「ここ、ちょっと寒いな」
「……お父しゃん、お母しゃんは?」
「赤ちゃん産むために、向こうのお部屋で頑張ってるんだ」

あかりは扉を見上げる。

「お母しゃんのとこいきたい」
「行けないんだ」
「やだ!いく!」
「駄目なの」
「やだぁ!お母しゃーん!」
「こら!駄目だってば!」

あかりはべソをかいて扉へ手をのばす。善逸が慌てて止める。

「お母しゃぁぁーん!うわぁぁぁぁん」

善逸は泣き出したあかりを抱き上げて、廊下に置かれていた椅子へ連れて行く。
あかりも幼いなりに緊急事態なことがよくわかっている。理解出来ない部分が大きいだけに、大人より不安が強い。

「よしよし、大丈夫だ」
「うわぁぁぁぁん」
「よしよし」

善逸にしがみついて泣きじゃくるあかりを抱きしめて、背中を擦ってやる。

「さっき、母さんはあかりに何て言った?」
「………ひっく、……っ、ひっく」
「ちゃんと覚えてるだろ?あかりは何でもすぐに覚える凄い子だもんな」
「『お父しゃんのいうことをよくきくんだよ』……ってゆった」
「そうだな」

一字一句間違えないあかりの解答に、善逸はクスッと笑う。

「じゃあ、父さんの言うことを聞いてくれる?」
「……うん」

善逸は膝の上にのせたあかりの頭を撫でながらゆっくりと話す。

「あのな。赤ちゃんは次の月に産まれるって言ってたけど、少し早く産まれることになったんだ」
「なんでぇ?」
「んー、そうだなぁ。きっと赤ちゃん、早く俺たちに会いたくなっちゃったんだよ。あかりも会いたがってたろ?」
「うん!あのね、いっしょにつみきするの!」
「ははは、そうだな」

あかりは落ち着いてきた。
涙が止まったので、手ぬぐいで鼻水と共に拭いてやる。

善逸はあかりの世話をしながら、自分の腕がとんでもなくだるいことに気が付いた。
光希の腹の子も含めると、三人分の体重を乗せてここまで走ってきたことになる。その疲労がようやく脳みそに伝達された。

右足の古傷もびりびりと痛む。
しかし光希の痛みはこんなものではないと、善逸は痛みを顔に出すことはなかった。

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