第78章 【続編】幸せの続き
不死川と遊び始めたあかりの背中に、光希が声をかける。
「あかり、すっごく嬉しいことしてもらった時は何て言うんだった?」
「あ!えっと、……んっと………」
「かような」
「……かようなすばらしきものをたまわり、まこと、かんしゃのねんにたえません」
あかりは姿勢を正して不死川に頭を下げてそう述べた。光希が笑いながら「よくできました」と拍手する。
男三人がぽかんとする。
「……お前、あかりに何教えてんだよ」
「我妻より余程しっかり喋るじゃねェか」
「完璧な礼だ」
「あはは、凄いでしょ。教えたらすぐ覚えるの。面白くってさ」
光希が悪戯っ子のような顔をして笑う。娘で遊ぶなよ…と善逸は思った。母になっても光希の悪戯癖は健在だ。
「いつのまに……こんなこと言えるなんて俺も知らなかったぞ」
「ふっふっふ。もっと知ってるよね?あかり。『敵を知り』」
「てきをしり、おのれをしれば、ひゃくせんしてあやうからず」
「『善く戦う者は』」
「よくたたかうものは、かちやすきにかつものなり」
「『戦いは』」
「たたかいは、せいをもってごうし、きをもってかつ」
「よくできましたー」
「あかり、すごい!」
「うん。凄いよ、あかり」
また光希が拍手をすると、あかりが得意そうに笑う。
押し黙る男たち。
「まだ意味はわかってないけどね。でも、読書百遍意自ずから通ずだから」
「……それ、何だっけ」
「前に教えたから教えない」
「………うう、俺は一回じゃ覚わんないよ。あかりが言ったのもなんなのかわかんない」
「あはは。孫子の兵法だよ。基本中の基本」
「そんし!おもしろい!すき!」
あかりが折り紙で遊びながら笑う。
……こりゃ、やべぇか。あかりと一緒に勉強するかな……
愛娘の恐ろしさを目の当たりにして、善逸はそう思った。家で一人置いていかれるのは寂しいから。