第78章 【続編】幸せの続き
妊娠7ヶ月になると、光希のお腹もだいぶ膨らみ、動くのも辛そうになってきた。元々痩せ体質の光希は、お腹がかなり目立つ。身軽だった体に赤子分の重みが加わり、足腰への影響も大きい。すぐに息が上がって座り込むこともある。
それでも仕事に精を出す彼女に、善逸は呆れを通り過ぎてもはや諦めの境地だ。
ここまでに出血もあれば、貧血で昏倒することもあったが、なんとか命をつないでこれた。
あと三ヶ月。善逸はひたすら祈っている。
今日は仕事が休みで、我妻一家は冨岡邸に来ていた。
「我妻あかりちゃん、何歳ですかー?」
善逸が嬉しそうに聞く。
「ふた……、みっつ!」
あかりは善逸に向けてドヤ顔でぴっと小さな三本の指を立てた。薬指がうまく上がらないので、善逸は笑いながらそっと親指で立たせてやる。
「よくできました。今日からみっつだな」
「うん!みっつ!」
「もう赤ちゃんじゃないね」
「あかちゃんじゃないよ!あかり、お姉ちゃんだよ」
「ははは、そうだな」
あかりは桃色の晴れ着を来て、ぴょこぴょこと飛び跳ねる。
今日は十一月三日。あかりの誕生日だ。
彼女の正確な誕生日はわからない。
善逸と光希は『推定霜月生まれ』ということから、この日をあかりの誕生日と決めた。
九月三日の善逸と十二月三日の光希。同じ三日でお揃いにした。
善逸が手を広げると、父の胸に飛び込んでくる愛娘。
「おっきくなってくれて、ありがとな」
小さな体をぎゅっと抱きしめながら、あかりの耳元で囁く。
「いいよ」
善逸の想いなどちっともわかっていないあかりが、嬉しそうに腕の中で笑う。
……俺の家族になってくれて、俺と光希を繋いでくれて、本当にありがとう……
善逸があかりを抱きしめながら幸せを噛み締めていると、玄関から声がした。
「あ!しゃねみしゃん、きた!」
その瞬間、彼女の眼の前にいる父は一気に空気と化した。あかりは善逸の腕から抜け出して、一目散に駆けていく。
「………くっそ」
善逸は悲しく一声あげて、玄関から聞こえる楽しそうな娘の声を聞いていた。