第77章 愛しき君へ
「身体、大丈夫か」
「うん」
「ゆっくり歩こうな」
「ありがとう」
夕暮れの帰り道。
「綺麗な夕焼け」
「そうだな」
善逸と光希の影が道に伸びる。
同じ歩調で家路を歩く。
「俺たちは逸れない」
「どしたの?」
「またお前がどっかに行きそうになったら、俺が必ず連れ戻す」
「……また、追いかけ回されるのね」
「俺のしつこさはわかってるでしょ」
「よく存じておりますよ」
「光希、ありがとう。俺と出会ってくれて、こんなにとんでもないくらいの幸せを与えてくれて……ありがとう」
「それは、無事に産まれてからもっかい言ってもらおうかな」
「何度でも言うよ。ありがとう」
「どういたしまして。こちらこそ、だよ」
光希はふわりと笑う。
「私は、死なないよ。この子もいけると思う。なんの根拠もない勘だけどね」
「根拠もなしにお前が語るのは珍しいな」
「そういうときもある」
「でもお前の勘はあたるからな」
「でしょ?」
「ははは」
「こんなに大好きな旦那様と、こんなに愛しい娘を遺して死ねませんよ」
光希が自分の腕を善逸の腕に添えた。
善逸が頬を染める。
「おまっ、そんな可愛いこと言わないで……俺はここから先、しばらく我慢大会になるんだぞ!」
「ふふ、頑張れー」
「頑張るよっ!!!」
善逸は片手であかりを抱え直し、空いた手で光希と手を繋いだ。
「あかり、落とさないでよ?」
「落とさねえって。片手でも余裕」
善逸は『嫌いにならないでぇ』と言いながらぐんぐんと背を伸ばし、今や義勇を抜いている。
その逞しくなった腕は、片手でも安定してあかりを支えている。
「でも、子どもが二人になったら、流石に手は繋げねえな」
「そうだね」
「だから、今のうちに。ね?」
善逸は光希に微笑みかける。