第77章 愛しき君へ
「お母しゃん」
光希が目を開けると、あかりと善逸の顔が目に入った。
「……あかり。善逸さん。私、寝てた?」
「うん。おはよ。身体大丈夫か?」
「大丈夫」
光希はむくりと身体を起こす。
「お母しゃん、おえってなる?」
「今は大丈夫だよ。ありがとうね」
「水飲むか?」
「うん、飲みたい。ありがと」
水を飲みながら光希はキョロキョロする。
「義勇さん達は?」
「さっき買い出しに行った」
「そう……」
二人で話せということだろうと光希は思う。
手の中の湯呑をじっと見つめる。
善逸が光希のお腹に手を当てた。
「善逸さん?」
「この中に、いるんだな。ややが」
「………そうだよ」
「俺に似ても、お前に似ても、真っ直ぐな黒髪だなぁ。あとは俺たちに共通点はねえな。どっちに似るかでだいぶ人生変わるぞ」
「………え?」
「えって何よ。俺、元々黒髪だよ。知ってるだろ?」
「や、そういうことじゃなくて……」
光希が善逸を見つめる。
「…………いいの?」
「駄目っつっても、お前聞かねえじゃん」
「そうだけど……」
「子どもは出来ないって言われてたのに、それでも宿った子なんだ。めちゃめちゃ運が良くて、とんでもなく強い子のはずだろ。だから、絶対大丈夫だ」
「善逸さん……」
「お前も無事で、ややも元気に産まれてくる。俺はそう信じることにした」
「…………」
「正直、すげえ怖いけど……。俺は信じるくらいしか出来ねえから」
善逸が震える手で光希を撫でる。
「俺たちはもっともっと可能性の低い鬼退治を果たしたんだ。だから出来る。大丈夫だ。な?」
「………うぅ……ひっく……っ、」
「こら、泣いてねえで『あったりまえだろ!』とか言えよ。さっきまでの威勢はどうした」
「……うわぁぁぁん……」
「あらら」
「お父しゃん!お母しゃんなかせちゃだめでしょ!」
「えええっ!俺が悪いの?これ!」
「まったくもお、なにしてんの!」
「口調が母さんそっくりだな、あかり。……この先、二人がかりでこられたらやべえな」
「……ふふ、あかり、お父さんは悪くないよ。……今回はね」
「いつもは俺が悪いのね」
「ふふふ」
光希は湯呑を横に置いて、涙を拭いた。