第77章 愛しき君へ
「……めでたいことなのに、浮かない顔をしているな」
義勇に言われて、光希はハッと我に返る。
珍しくぼーっとしていた。
「今」
「三ヶ月です」
「現状」
「子宮の状態は、良くはありません。無理と言われてたのに、なぜ妊娠出来たのか不思議なくらいですから」
「え……」
義勇への報告を聞く善逸が、小さく声を上げる。
「確率」
「……胎児が出産まで生存できる確率は五割。出産で私が死ぬ確率も五割」
「………なるほど」
「つまり、母子共に生存しての出産となると……単純計算で二割五分ですね。実際のところは二割を切るでしょう」
「ふむ」
「え……ちょっと、なんだよそれ!」
「なに?計算は善逸さんの方が得意でしょ」
「そういうこっちゃねえだろ!」
善逸は声を荒げる。
その怒気を含んだ声に、光希の腕の中であかりがビクッとする。
「おい、善逸。やめろ」
「………すみません」
義勇に声をかけられたことで善逸は我に返る。申し訳なさそうに俯いた。
さっき心に湧いた喜びの気持ちが、消えていった。
「……光希、駄目だ」
「善逸さん」
「赤ちゃんは嬉しいけど、駄目だ。お前に危険が及ぶなら話は別だ。俺は許さない」
「…………」
「残念だけど、諦め」
「ざっけんな!!」
今度は光希が叫ぶ。
あかりがまたもビクッとする。
「おい、善逸。……お前今、何言おうとした」
光希が物凄い顔で善逸を睨む。
「馬鹿も大概にしろよ!このくそぼけ野郎!」
……あ、光希がキレた
そう感じた善逸は青ざめる。
義勇も、これはやばいと感じて、あかりに向けて手招きをする。あかりは光希の膝から降りて義勇の膝上に避難した。
「何が『許さない』だ!なんでお前が決定権持ってるみたいな感じになってんだ!そもそもこれはお前が仕込んだんだろが!違うか?違わねえよなぁ、善逸!それを偉っそうに、よくもまあ言えたもんだな!」
「ひぃ……、あの、その、ごめん」
盛大に夫婦喧嘩が始まった。