第11章 一本
確かに光希の予想通り義勇は子どもが好きではなかった。嫌いというわけではなく、どう接していいのかわからないのだ。
「兄ちゃんの、せんせーなの?」
「……そうだ」
「つよいの?」
「……強いぞ」
「兄ちゃんよりも?」
「………ああ」
突き放したりせず、一応相手をしてくれる義勇。
光希は男の子の脇に手をいれ、ひょいと高く抱き上げる。
「当たり前だろ。俺の先生だぞ?この世でいっちばん強いんだ!」
男の子は高い高いに喜んで、きゃははと声を上げる。さり気なく義勇から離し、他の子の元へ連れて行く。
「ごめんな、今は兄ちゃん遊べないんだ。また今度一緒に遊ぼうな」
「じゃあな」と手を上げ、義勇の元に来る。義勇は先に行かずに待っていてくれていた。二人で歩き始める。
「すみませんでした、義勇さん」
「いや。兄弟か?」
「いえ、一番下の子は違います。あいつら家が隣で仲良いんですよ」
「詳しいな」
「たまに遊んでますから」
その後も歩きながらいろんな人に声をかけられる光希。年齢性別問わず話しかけられる光希を見て、義勇は光希の対人スキルに感心した。
その目線に気付いたのか、
「ご近所付き合いは大切ですから」と光希は笑った。
思い出してみると、光希が屋敷に来てから帯刀して歩いていても変な目で見られることが減ってきた気がする。
光希が住人に気に入られ、あの子の師匠だから、という評価が義勇に与えられていたのだと解る。
「……お前は、凄いな」
「いえ、俺は人が好きなだけです」
「俺には出来ない」
「そんなことないと思いますよ。義勇さんがにこっと微笑みかければ、娘さんたちは皆、簡単に落ちます」
「………」
「すみません、想像出来ませんでした」
そう言って笑う光希。
また声をかけられ、何やらお礼を言われている。
屋敷は見えているのになかなか帰宅出来ない。
先に帰ればいいのに、何故か足を止めてしまう義勇。以前の彼なら構わずに帰宅しただろう。
『この世で一番強いんだ!』
自信満々にそう言った光希。それに恥じない剣士にならねばな、と思った。
義勇は「あの人が、先生?」と言われる度に会釈をする。住人から愛されるこの弟子を、誇らしく思った。