第77章 愛しき君へ
「ふふ。炭佑、髪、癖っ毛だよね」
「完全に俺に似たな。結びにくいし、切ってもはねるんだよ、これ」
「直毛の遺伝子どこいったの」
「本当だよ。苦労するぞ。ははは」
「髪と目が赤いのは、なんでだろうね」
「もう、いいのにな」
「だよね」
「俺はこの子にヒノカミ神楽を伝えるつもりはないよ。……まあこの腕じゃ無理だしな」
「私もなんとなく神楽、わかるけど……」
「いや、いいよ。もう願いは果たされたんだから。伝える必要はない。光希が如月家を途絶えさせたように、俺も神楽はここまでにするよ」
「そっか」
「うん」
「……それでいいと思うよ」
「うん。ありがとう」
二人は和やかな雰囲気の中、寄り添って微笑み合う。
そこへ庭からまた一人、青年がやってきた。
「……おいこら炭治郎。てめえ、なに人の嫁といちゃいちゃしてんだ。刺すぞこら」
「あ、善逸」
「善逸さん」
炭治郎よりさらに背を伸ばした善逸が、あかりの手を引いて歩いてきた。顔付きも男らしくなっており、髪も短く切られている。
「お父しゃん、お口わるい」
「やだごめんね?あかりちゃん!父さんを嫌わないで!!ね!お願い!!」
不機嫌丸出しだった善逸が、いきなり焦って面白い顔になって叫ぶ。
炭治郎と光希は苦笑いをこぼす。
「すみちゃん!」
あかりが炭佑に駆け寄る。
「えへへ、かわいーね」
「こらあかり、炭治郎さんにご挨拶は?」
「あ!たんちゃん、こんにちは」
「こんにちは、あかり」
あかりは炭治郎に挨拶をすると、すぐさま炭佑を覗き込む。興味津々だ。
「すみちゃん、ねんね?」
「そうよ。ねんねしてるの」
「……しぃー?」
「そう。しぃー」
「たんちゃん。すみちゃん、さわっていい?」
「いいぞ。ちょっとだけな」
「はい」
あかりは小さな指で炭佑のほっぺたを触る。
炭佑は口をもぐもぐとさせて、少し微笑んだ。
「あ、にこってした!」
「笑ったねえ」
「はは、炭佑よかったなー嬉しいな」
「…………」
炭治郎と光希、炭佑とあかりが一つの和になっているように思えて、善逸は面白くない。