第76章 家族
夜になり、光希の部屋で善逸も寝ることとなった。
夫婦になったので、千代が客間の布団を運んできてくれたのだ。あかりを挟んで川の字になる。
「まさか、この家でお前と同室で寝る日が来るとはな」
善逸が感慨深そうに言いながら、あかりの髪を優しく撫でる。
「完全に遠ざけられてたもん、俺」
「師匠の家であることには変わりないよ。布団に入ってきたら蹴り出すよ」
「わかってるよ。お布団汚せないしね。へへ」
光希は少し頬を染めて「ばーか」と囁く。
善逸の反対側から手を伸ばしてあかりを撫でる。あかりは既に夢の中だ。
「朝まで寝ててよー。夜泣きしたら義勇さん起こしちゃう」
そう言う光希の顔も、少し眠そうだ。善逸はあかりのお腹の上に置かれた光希の手に、自分の手を重ねる。
「ん?……どしたの?」
「幸せだなって」
「そうだね」
「本当はまだ親になんてなれる歳じゃないし、不安だらけだったけど、こうして皆が助けてくれる。俺は……俺たちは恵まれてるなぁ」
「うん。ありがたいね」
「これは、お前が作ってくれた繋がりだ。お前のこの能力は本当に凄いと思う。人と人を繋ぐ力。それこそが光希の最大の力だ。………昔からお前は友達に囲まれてた。俺には到底できないよ」
「そんなことないでしょ。卑屈だなぁ」
「そんなことあるよ。俺は、お前と繋がることに必死で、そこで全部使い切ったんだ、きっと」
「善逸さんは人見知りだからねぇ」
「でも、いいんだ。俺はお前と繋がれたことで十分だ。俺にしちゃよくやった。大金星だよ……」
善逸は身体を起こし、光希に顔を近付ける。
「こら。ここは、」
「口吸うくらい、いいでしょ」
「えー……」
「許してよ。今夜はお前と……繋がれないわけだしさ。ね?」
善逸は含みを持たせてそう言って笑うと、あかり越しに光希に口付けをした。
光希も目を閉じて、善逸の愛を受け入れる。
「……ふぇっ」
あかりが小さく声をあげる。
二人はぎょっとして唇を離す。慌ててあかりを覗き込む。
「起きちゃった?!」
「……や、大丈夫。……よーしよし、あかり、いい子でねんねだぞ」
「ふぅー……、よかった」
光希と善逸は悪戯がバレた子どものようにくすっと笑い合うと、愛おしそうに我が子を見つめた。