第76章 家族
またその翌週の休みに、今度は冨岡邸に向かう。
入籍したことや養子のことは連絡済みだが、実際にあかりを連れていくのは初めてだった。
「ごめんください」
善逸が声をかけると、千代が出迎える。
「善逸くん、光希、いらっしゃい……まあ、この子が?」
「はい。あかりです」
「まぁ、……なんて可愛らしいの」
善逸が抱いているあかりを見せると、千代はあかりに手を伸ばす。あかりは善逸にしがみついたまま、きょとんとしていた。
「母ちゃんは、ばあばになるんだね」
「ふふ、ほんとね。さ、二人ともあがって」
「はい。ありがとうございます。お邪魔いたします」
「ただい……お邪魔します」
光希は、ただいま戻りましたと言いかけてやめる。もう自分は我妻家に嫁いだのだから。
善逸に合わせて挨拶をした。
義勇の部屋に行き、義勇と千代に改めて結婚の報告とあかりの説明をした。
「あかりちゃん、何ヶ月なの?」
「推定七ヶ月です。霜月頃の生まれのようなので」
あかりは部屋の中をずり這いで動き回っている。文机に頭をぶつけそうだったので、善逸が慌てて抱き上げて膝に乗せる。
「我妻は過保護だな」
「そうなんですよ。少々ぶつけても大丈夫だと思うんですけどね、私は」
「だって!ごっつんしたら泣くだろ」
「いいじゃん、痛みで知ってくんでしょ」
「まだそんな段階じゃない!」
動きたいあかりは善逸の膝の上でごそごそとしている。光希は面白がってあかりを抱き上げ、座椅子に座っている義勇の膝に乗せる。
「はい、どうぞ」
光希は義勇の側に座り、にこりと笑いかける。彼が子どもを苦手としているとわかっての行動だ。
「…………」
義勇は固まったまま、無言であかりを見下ろす。あかりは無垢な瞳で義勇を見上げている。
「ほら、義勇さん。そんな怖い顔してたら泣いちゃいますよ?」
「しかし……」
「冨岡さん、娘を撫でてあげてください」
「赤子は意外としっかりしてますよ」
善逸や千代に言われて、義勇はそっとあかりの頭に左手を添え、親指で額を撫でる。
するとあかりは「あぅぁ」と笑って義勇の胸に近付き、登ってこようとした。
「……っ!」
驚く義勇。咄嗟に左手をあかりの背に当て、落ちない様に支える。あかりは義勇の胸ぐらを掴み、身体の上をごそごそと動く。