第76章 家族
善逸は懐から櫛を取り出した。
藤の花が彫られた美しい櫛だった。
「如月光希さん。この子と一緒に、俺の家族になってください。小さい頃、俺と兄弟になってくれたように。今度は妻として、俺と共に生きてください」
光希は善逸と差し出された櫛とを交互に見つめる。
「血が繋がってなくても、家族になれる。かけがえのない絆もできる。それができないとは言わせない。そうだろ?」
「………うん」
「この子と俺たちの出会いも、偶然じゃない。あの戦いの中でこの子はお前に助けを求め、生きようとした。きっと、お前とも深く繋がってるんだ。この子は俺たちにとっての……運命の子なんだよ」
「そうかもね」
「……これ、受け取ってくれますか?」
光希はおずおずと手を伸ばし、善逸の手ごと両手で櫛を掴む。
「………、私でいいの?」
「なにを今更」
「だって……」
「もし光希が早く死んじゃっても、俺とこの子はしっかり生きてくよ」
「その時は再婚してね」
「それは……出来るかなぁ、俺、お前と違ってモテねえから」
善逸は笑いながら光希を抱きしめた。
善逸の匂いに包まれる。
光希がこの世で一番安心できる場所だ。
「もし短い人生なんだったら、尚更だ。光希のこの先の人生、俺にちょうだい。俺のも全部あげるから。だから、一緒に居よう。ね?」
「…………」
「俺が、光希もこの子も幸せにする。奪うんじゃない。与える為に連れてきたんだ。いっぱいの愛を、あげるんだよ。……俺たちが貰えなかった分まで」
「………善逸」
「貴女を愛しています。俺と結婚してください」
「………謹んで、お受けいたします」
光希は善逸の腕の中で贈られた櫛をぎゅっと握りしめ、ぽろぽろと涙を流した。善逸の着物が涙を吸っていく。