第76章 家族
「……驚かせてごめんな」
「私も、取り乱してごめん」
「ううん、そりゃ取り乱すって」
「…………」
善逸は赤子の頭を優しく撫でる。
「光希。この子……誰かわかるか?」
「え……?」
「この子は、お前があの時、助けた子だよ」
光希は驚く。
この赤子は、無惨との戦いの中で泣き声をあげ、光希が助けた子だった。その時光希は下腹部を負傷し、子どもを望めなくなった。
「そっか、あの時の……生きててくれたんだ」
「うん。しばらく隠の人たちが育ててたんだけど、鬼殺隊の解散で施設に行くことになったんだ」
「親は」
「居ないってさ。あの戦いで亡くなったのか、元々あそこに捨てられていたのかわからない」
善逸と光希はすやすやと眠る赤子を見つめる。
「俺が褒賞金の受け取りに行ったとき、ちょうどこの子が施設に行くって日でね。すごく泣いててさ。隠の人も困ってて。で、なんか俺、不思議とすごく気になっちゃったの」
「気になる?」
「うん。俺の耳に『嫌だ!行きたくない』って助けを求めて泣いてるように聞こえたんだ」
「…………」
「幸せになるために生まれてきたのに。光希が命をかけて必死に助けたのに。この子、この先一人ぼっちになっちゃうのかなって思って……」
「善逸……」
「で、ああこの子を迎えたら光希も俺と一緒になってくれるかな、二人で育てていきたいなって思ってさ。気付いたら、俺が引き取るから待ってくれって言ってたんだ」
「………馬鹿じゃないの」
「そうだね」
善逸は苦笑いをして、頭をかく。
「光希を嫁にして、一緒にこの子を育てたい。そこから逆算して策を練った。そして、ここまできた。手続きがいっぱいで、時間がかかっちゃった」
「…………」
「我妻善逸、一世一代の大勝負。乾坤一擲だ」
善逸は光希の目の前に姿勢を正して座った。