第76章 家族
「あれ、少し落ち着いたね」
善逸は運んできたお盆を机において、白身魚を混ぜた潰し粥を小さな匙ですくう。
光希は食べさせやすいように赤子の向きを変える。
「ほら、あーん」
善逸が匙を口元に近付けると赤子は口を開き、匙からお粥を食べてあむあむと口を動かした。
「食べた……」
「偉いぞーお利口さんだなー」
「だぁ、んまま」
「うん、もっと食べような」
善逸はにこにこと笑いかけながら、また食べさせていく。繰り返していくうちに、光希はだんだんと赤子を支えている腕が辛くなってきた。
「あ、ごめん、光希。抱っこ代わるよ」
「ありがと。結構重いんだね」
「八キロあるからな。よいしょ」
善逸はひょいと抱き上げて自分の足に乗せる。
「まだ食べるか?」
身体を折りたたんで赤子に食べさせる姿は、なんだか面白い。何度か食べて、赤子は匙から顔をそらした。
「お腹いっぱい、かな」
善逸は縦に抱いて背中をトントンと叩く。
「光希、そこの布団敷いて」
「これ?」
「そうそう」
光希はたたまれていた小さな布団を広げる。
善逸は立って軽く揺すりながら背中を叩く。赤子は「ゲフッ」とゲップをした。
「よし。上手だね」
善逸は赤子をそっと布団に寝かす。
トントンとリズムよく身体を叩きながら、歌をうたって寝かしていく。
待ちましょう 待ちましょう
あなたがここに帰るまで
待ちましょう 待ちましょう
いつまでも
いつか 夢みた場所へ 行く日まで
あなたのことを
待ちましょう……
善逸の歌を聞きながら、赤子は眠りに入っていった。
「………ふぅ」
「子守唄じゃないじゃん」
「知らねえもん。歌ならなんでもいいんじゃないの?寝たし」
光希は養子縁組の書類をもう一度見る。先程は頭に血が昇って冷静になれなかったが、改めて見てみると、それは役所から発行された正式なものだった。善逸がしっかりと考えて、長い時間をかけて手続きをしてきたのだとわかる。