第75章 静かな時
「待ってよ!」
「日暮れまでに帰らないと怒られるの!」
「一緒に怒られてやるよ」
「じゃあ、善逸だけ怒られて」
光希は笑って善逸に手を出す。
「ほら、ちゃんと捕まえとかないと、すぐどっかいっちゃうよ?」
「………やだ」
善逸は光希の手を取って、並んで歩く。
「ね、どっかの誰かさんて、誰?」
「誰だろうね?」
「………候補が多いな、くそ」
「あはは」
「冨岡さんだったりして」
「いいね。痣者同士だから気が楽だわ」
「ちょっとちょっと!!冗談に聞こえなくて怖いっつーの!!」
善逸は光希の手をぎゅっと握る。
「意地悪」
「今更?」
「ずっと!ずーっと光希は意地悪!」
「へぇ」
「でも、仕方ない。好きになっちゃったから……」
「あらら、間違えちゃったねぇ」
「大変なの、もう。………でも、俺は光希がいいの。理屈じゃないの。好きなの」
「私も、好きだよ。善逸」
「え……」
「あれ?知らなかった?好きよ、大好き」
「知ってる……知ってるけど……え?」
「ん?」
驚きの表情を浮かべる善逸に、光希は笑う。
「俺とまた付き合ってくれるの?」
「いいよ」
「え?いいの!?」
「いいよ」
「……またまた。嘘だろ?」
「嫌ならやめるけど」
「嫌じゃねえっ!!!」
信じられないといった顔を浮かべる善逸。
「そんなに驚く?何、さっきの告白はそんなに勝算なかったわけ?」
「いや、そんなことねえけど……これは夢か?」
「そんなに現実味無いの?」
「無いよ、無さすぎだよ……まじか」
善逸はやや呆然としながら歩く。
「………もっかい言って」
「好き」
「誰を?」
「善逸」
「どのくらい?」
「……どのくらい?……いっぱい、かな」
突然、善逸は光希の手を引いて走り出す。
「うわっ!」
「急ぐぞ!光希!」
「え、何っ?」
「早く隠れ家に帰って、大掃除だっ!」
「は?ちょっと、速いって!」
「このままお前を連れ帰る!」
善逸は光希をひょいと抱き上げて雷の様に走り出した。
「ひゃっほーー!!!帰るぞ!俺たちの家へ!」
走りながら嬉しそうに飛ぶ善逸。
大はしゃぎだ。
光希は落ちない様に善逸の着物をぎゅっと掴み、彼の腕の中で「ばーか」と頬を染めながら呟いた。