第11章 風柱
木々の生い茂る深い闇の森を、氷柱・氷渡陽華は勘と匂いを頼りに走っていた。前の方から、風に乗って鬼の放つ異臭がした。
「実弥、こっち!!」
声に反応して、風柱・不殺川実弥が刀を抜いて飛び出した。暗闇に慣れた目に、鬼の姿が浮かび上がる。
ー 風の呼吸…
瞬時に動いた実弥の刀が鬼の首を刈り取った。
消滅していく鬼の首に眺めながら、実弥は刀の血を拭き取ると、静かに鞘に納めた。
「チッ、やっぱ下弦かァ。」
鬼の目に刻まれた、『下惨』の文字。
「まぁね。上弦だったら、まず逃げないよね。」
実弥の横に立っていた陽華が、消え行く鬼の顔を見ながら言った。
実弥はゆっくりと息を吐くと、陽華の顔を見た。
「どうする?山を降りるか?」
陽華は少し考えてから、こう言った。
「今夜は月も出てないし、暗闇の山は危ないよ。あっちの方から、水の音が聞こえるから、今は焚き火でもして、休憩しよ。そんで、夜が開けたら下山しよ。」
陽華の提案に、実弥は静かに頷いた。