第1章 少年と妹
自分でもとんでもないことをした自覚はある。でもそれ以上に、気分が高揚していた。
小さい頃から好きだった。まさかこんな返事を貰えると思ってなかった。勇気を出して告白して良かった。
(今日はもう眠れないかも!)
陽華は早まる胸を抑えながら、眠りに着いた。
一方、された方の義勇は凍りついたまま、一睡も出来ず、夜を明かしたのだった。
・・・・
昨日のこともあり、なんだか照れ臭い感じで朝を迎えた二人は、そのままの気まずさを抱えたまま、鬼殺隊本部に向かう汽車に乗る為、駅まで歩いていた。
そんな中、ようやく口を開いた義勇が陽華に問いかけた。
「一つ、聞いてもいいか?」
「なに?」
「付き合うって、どういうことだ?」
「うーん。一緒にお出掛けしたり、ご飯食べたり…とか?」
「いつもしてることと、あまり変わりがない。」
「うん…任務で各地に出掛けるし、食事もするしね。……あっ!手を繋いで歩いたりっ!?」
思い付いたように義勇を見ると、義勇は真顔でこちらを見ていた。
「すみません、調子に乗りました。」
しょぼんとした顔をして項垂れていたら、義勇がため息を着いた。
「……ほら。」
義勇が陽華に向かって、手を差し出す。
「へへ…へ。」
「気持ちの悪い笑いをするな。」
握った義勇の手は暖かかった。ふと子供の頃の記憶がよみがえる。
「義勇、あの時のこと、覚えてる?」
「あぁ。鱗滝さんに狭霧山に置いていかれて、罠の穴に落ちたお前が、大泣きした時のことか。」
「いや、そこまで思い出さなくていいんだけど。」
まだ修行が始まったばかりの頃で、穴に落ちた拍子に、陽華は腕を怪我してしまった。
義勇と錆兎が穴から救いだしたものの、陽華は泣き止まず、義勇は隣に座り、泣き止むまでずっと手を握ってくれた。
帰りもそのまま手を引いて、山を降りてくれたのだった。
「ふふ。あの時の義勇の手も暖かかったな。」
その言葉に義勇は顔が熱くなるのを感じた。
…おまえの手だって変わらない。あの頃まま、小さくて、か弱くて、暖かい。俺が好きになった、あの頃の……、
そう言いかけ、義勇は言葉を飲み込んだ。
感情を出してはダメだ。俺はアイツの代わりに、選ばれただけなんだから。
ー少年と妹 完