第45章 エピローグ
少し、寂しそうな顔を浮かべると、義勇が慰めるよう陽華の腰に手を回して、身体を密着させた。
「俺がいる。」
「えー?だってさっき、若くて可愛い娘に、ちゅーしてたじゃない?」
陽華が口を尖らせると、義勇が優しく微笑んだ。
「……大人げないんじゃないのか?」
義勇が静かに顔を近づけ、唇を重ねた。昔から変わらない、その柔らかく心地よい感触に、陽華は身を委ねる。
「……んっ。」
唇を離すと、義勇は小さい声で囁いた。
「陽華。今夜…久々に…、」
「あーーー!お父さんとお母さんが、またちゅーしてる!」
急に勇兎に叫ばれ、言わんとした言葉を邪魔された義勇は、がっくしと項垂れた。
陽華はくすくすと笑いながら「残念でした。」と言うと、義勇の腕から逃れるようにすり抜ける。
そして家の中に入り、子供達に話しかけた。
「二人共、ちゃんと洗えた?きちんと出来た子には、お母さんがご褒美にちゅーしてあげるから、おいで?」
「わーい♪」
そう言ってはしゃぐ、愛しい妻と子供達。
義勇は家の戸口に立つと、その光景を目を細めて見つめた。
そんな何でもない日常が、愛しく思える。
こんな日が、これからも続くといい。
願わくば、この先もずっと…
そんな事を義勇が考えていると、子供達にご褒美をあげ、先に居間に行くように促した陽華が、不思議そうに義勇を見ていた。
「ほら、義勇も早く手を洗って?」
陽華に催促され、義勇は土間にある水道で手を洗う。そして、渡された手ぬぐいで手を拭くと、陽華に問いかけた。
「なぁ、ご褒美は俺にもくれるのか?」
「義勇も欲しいの?仕方ないなぁ。」
そう言って微笑み、陽華が義勇に近づくと、義勇はそれを制した。
「今はいい。」
「え?」
驚いた顔を見せる陽華に、義勇が顔を近づけると、優しく囁いた。
「今夜まで取っておく。とびきり甘くて、濃厚なのをくれ。」
「もうっ!」
まだ諦めてなかったのかと、陽華は思わず小さく笑ってしまった。そして、観念したような、呆れたような顔を義勇に向けると、小さな声で答えた。
「じゃあ、子供達が寝たら…ね?」
ー おしまい