第41章 繋ぐ想い 前編
「んなモン、四百年も前に起きたっつー、ただの伝承だろ?…気にするなんて、お前ららしくもねぇ。」
そう言われても、産屋敷家の書庫には、その事について書かれた書が、今もまだ残されている。その書庫に、頻繁に出入りしていた陽華は、それを読んでいたし、嘘とは思えなかった。
それに、
「…天元さんは、痣が出たことが、無いから…、」
陽華が小さく呟いた。痣が出た瞬間、自分でも引く程に超人的な力が出た。それは今までの自分が感じたことがないほど、驚異的な物で、その代償が命だと言うなら、納得が出来る。
「まぁな。そりゃ、最後の戦いにも出てない俺が、偉そうな事が言える立場じゃねーけどよ。……でもな、想いの通じ合った二人が添い遂げて、その結果、新たな命が出来る。それが自然の摂理だろ?」
天元にそう言われ、陽華は、無惨と戦う前、義勇と話したことを思い出した。
義勇と二人で、幸せな家庭を持つ未来。自分だって、その未来を夢見てた。でも、今それを、数年後に死んでしまうかもしれない自分が思い描くには、あまりに無責任過ぎる。
そんな陽華の気持ちを知ってか知らずか、畳み掛けるように天元が言葉を続けた。
「それに…誰にだって、お前にだって、自分の想い、必死に生きた証を、未来に繋いでいく権利、あんじゃねーか?」
そこで、それまで黙って聞いていた義勇が、天元と陽華の間に割り込むように、一歩前に出た。
「宇髄、そこまでにしてやってくれ。ここからは、俺と陽華の問題だ。」
義勇に止められて、言い過ぎたことに気づいたのか、天元は決まりが悪そうに、頭を掻いた。
「悪かったな。…俺はただ、あんなに頑張ったお前らが、幸せになっちゃいけないと思ってることに、少し憤りを感じまってよ。」
「うん、わかってる。天元さんの気持ちは、嬉しかったよ。……ありがとう。」
そう言って、いつものように明るく笑う陽華を見て、天元はそれが確実に、自分を心配させない為の作り笑いだとわかっていたが、陽華の気持ちを組んで、それ以上は何も言わなかった。
そして、会議の日程を伝えるとその場を去っていった。
その後ろ姿を、何も言わずにただ見てる陽華の手を、義勇は優しくずっと握りしめていた。
ー 繋ぐ想い 前編 完