第34章 最終決戦 上弦の弐
陽華は迷路のように複雑で入り組んでいる城の中を、鼻を頼りに走り回っていた。
「しのぶーーー!」
親友の名前を呼んでみるが、出てくるのは鬼ばかり。下弦くらいの強さではあるが、こうごちゃごちゃ出てこられるとキリがない。
一気に斬り伏せて、先を急ぐように走り出す。
するとふいに陽華の鼻は、鬼の匂いの中に人間の血の匂いを嗅ぎとった。
その中に微かに香る藤の花の匂い。
「この匂い…、しのぶっ!」
胸騒ぎに刈られて、匂いが強く残る扉の前へと走り出した。
バタンッ!
急いで開けた扉の向こう側にはいたのは、一匹の鬼と、今にも倒れそうな、血だらけの親友の姿だった。
心臓がバクバクと波打つのを感じた。
胸から血を吹き出し、ゆっくりと倒れ込むしのぶ。
そんなしのぶに向かって、その鬼はニヤニヤと顔を綻ばせた。
「毒じゃなく、頚が斬れたらよかったのにね。それだけ速かったら、勝てたかも…。あー無理かぁ、君小さいから。アハハ♪」
そう言ってその鬼はコロコロと笑った。
「しのぶっ!!」
陽華は、今にも崩れ落ちそうに片足を着く、しのぶの元に駆けつけた。
「…陽華、ごぼっ!」
陽華の名前を呟きながら、しのぶは大量の血を吐き出した。
「しのぶ、遅れてごめん!」
「…あいつが…、姉さん…の、」
しのぶは背後にいる鬼を一瞥した。陽華はしのぶを支えるように抱き締めながら、目の前にいる鬼を睨み付けた。
上弦の弐
鬼の目には自分の階級を告げる文字と数字が刻まれている。
間違いなく陽華が、今まで対峙したことのない強敵。優しい顔を陽華に向けているが、その身体から発せられる威圧感だけで、身の毛が弥立ち、身体全体が萎縮するような恐怖を感じる。
(これが、上弦!?)