第3章 帰郷
少年の名は竈門炭治郎と言った。一年前に義勇が見逃した少年。再開してお互いに名乗っていないことに気がついた。
「うん、いい顔になったね。」
あの時、雪の中で妹を抱えて、不安そうに瞳を揺らしていた少年とは違い、目的を見つけ、目にはその瞳の色と同じように、熱い炎がやどっているように見えた。
「いえ、これも冨岡さんと陽華さんのお陰です。どうしていいか、わからない俺達に、道を教えてくれました。」
「私は何もしてないよ。」
陽華は手を振り、苦笑いを浮かべた。炭治郎は静かに首を降った。
「…陽華さんが、去り際に頑張ってね。って言ってくれて、すごく救われたんです。」
そう言って、優しく笑った。その可愛い笑顔に、陽華はきゅんとした。
(あら、可愛い…。やだ!私、蜜璃みたいになっちゃった。)
だが、その可愛い顔が瞬時に曇る。
「でも…、今は新しい壁にぶち当たってます。」
「最終試験ね?どの岩を切るの?」
陽華の言葉に、炭治郎が指差した先にあったのは、この場所で一際存在感を放っている大きな岩だった。
「え、アレ?」
自分達が子供の頃から、もうすでにそこに鎮座していた。鱗滝も、ここに住み着いた時からあった。と話してる。
そんな歴史のある大岩を、最終試験に出した。自分達の時は、もっと小さかったのに。
(師匠、よっぽど行ってほしくないのかしら。)
「どうしたら、切れますか?」
炭治郎の質問に、陽華はうーんと少し考えると、
「鱗滝さんとの修行の全てが、糸口になってるの。その一つ一つの意味をよーく考えて、鍛練しなさい。そうすれば、この岩の弱点が見えてくるから。」
鱗滝の気持ちも考えて、そうアドバイスした。炭治郎は、
「…弱点?はいっ!」と元気よく返事した。
久しぶりに純真無垢な少年と話して、穏やかに気持ちになった陽華は、すっきりとした気持ちになって、その場を後にした。
あの時見えた、白い影。炭治郎本人だったのか、それとも錆兎が引き合わせてくれたのか。
真相はわからないけど、師匠の言葉と炭治郎の存在にやる気を充電して、次の任務へと意気込んで、向かっていった。
義勇、あいつマジで次に会ったら殴ってやろう。そう心に誓いながら…。
ー帰郷 完