第29章 ※逆上せあがる
晴れて両思いとなった陽華と義勇が、二人きりになれる時間は限られていた。
少しでも長くいたかった陽華は、義勇の屋敷に勝手に住み込んでいた。
その日は先に稽古を終わらせて帰宅した陽華が、後から帰って来た義勇を玄関で出迎えた。
疲れた表情を浮かべていた義勇だったが、陽華の姿を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「ただいま。」
「おかえりなさい。お疲れみたいだけど、どうしたの?」
「…稽古が終わったら、不死川が稽古が足りないからと、勝負を挑んできた。」
「受けたんだ?」
「あぁ、柱として生きると決めたなら、痣の発現は急務だ。」
「そうだね、お疲れ様。」
陽華は笑顔で義勇を労った。義勇が水柱として前向きになってる。それだけで嬉しかった。
部屋に入ると陽華は、義勇が脱いだ羽織を衣紋掛けに吊るした。
つぎの瞬間、義勇が優しく後ろから抱き付き、首筋に顔を埋めた。
「どうしたの?」
「元気を補充している。」
「もう、くすぐったい!」
ふふと笑って、陽華は首に絡みつく義勇の頭を撫でた。
「義勇付きの人がご飯作ってくれてたよ。ご飯食べる?それとも先にお風呂入る?」
「…風呂。」
義勇は陽華にさらにすり寄ると、耳許で呟いた。
「一緒に入りたい。」
「またそんなこと言って!早く一人で入ってきなさい!」
陽華が冷たく言うと、義勇は渋々、一人で風呂場に向かった。