第25章 柱稽古
「お前とのことも…、お前は昔から錆兎が好きだと思ってた。だから俺は…錆兎の代わりに選ばれたんだと…、勝手に勘違いしていた。だが…、」
義勇は、陽華を真剣な顔で見つめると、言葉を絞り出すように言った。
「…本当は…俺だって、出会った時から、ずっと…おまえが好きだった。」
「…っ!」
義勇からずっと聴きたかった言葉。
こんな状況なのに、陽華は身体中が震え、目頭熱くなっていくのを止められず、手で顔を抑えた。
「…でも、ただ生かされてきただけの俺が、幸せになっていい筈がない。だからあの日、おまえの本当の想いに…答えることが出来なかった。」
義勇は申し訳なさそうに陽華を見ると、その手を取り、そっと包み込むように握りしめた。
「確かに俺は、錆兎の代わりだと…思っていた。でも傍にいた理由は違う。どんな理由でも構わないから、俺がお前の傍にいたかった。」
そう言うと義勇は、悲痛な表情で陽華を見詰めた。
「もう、遅いかもしれない。でももし、まだ間に合うなら、もう一度、俺の傍にいて欲しい。今度こそ、おまえと二人で…幸せになりたい。」
そう問いかける義勇の顔は緊張で高揚し、強ばっていた。陽華は今にも溢れそうな涙をぐっと堪え、くしゃくしゃの笑顔で義勇に笑い掛けた。
「ううん、遅くない。義勇がそう言ってくれるのをずっと待ってた。私の幸せには義勇が必要なの。義勇とじゃないと幸せになれないの。だから、これからも傍にいさせてください。」
陽華の言葉に、義勇は緊張した顔を緩めて、嬉しそうに笑った。久しぶりに見た義勇の笑顔はあの頃から何一つ変わってない。
陽華が好きになった、あの笑顔のままだった。
義勇は満足したように頷くと、「また後で会いに来る。」と優しく微笑みながら言った。
そして道場にいた隊員達に向かい、「邪魔をした。」と一言詫びを入れ、出口に向かって歩きだした。