第2章 異変
陽華は自分がこんなにも、鬼殺隊に恋い焦がれる理由を知っていた。
鬼によって家族を失くした日、自身も殺される寸前を、助けてくれた鬼殺隊員。その人が本当に英雄に見えたから。
その人は助けてくれただけじゃなく、自分が遅くなったせいで、家族を助けられなかったことを、泣いて詫びてくれた。
鬼への復讐もあったが、それよりも陽華は、人の痛みがわかるこんな鬼殺隊員に、自分もなりたいとこの道を選んだ。
「私ね、そんな英雄達が刻んだ歴史を、もっともっと知りたいの。」
そう言って義勇の顔を見ると、義勇はすごく優しい顔で陽華を見ていた。
あまりにも優しすぎて、陽華は顔の火照りとともに、心臓が高鳴るを感じた。
「ぎ…ゆう…、」
陽華は傍らにあった義勇の手をそっと握りしめ、静かに義勇の顔に自分の顔を近づけた。
そして目をつぶり、顎を上げ、義勇を待った。
義勇は少し迷いながらも、陽華に答えるべく、静かに自分の唇を、陽華の唇に重ねた。
その瞬間、心が今まで感じたことのない感情で満たされて行くのを、義勇は感じた。
…だがそれは、義勇が感じてはいけない感情だった。
気がついたら、陽華を自身から引き剥がしていた。
「っ?ぎゆ…う?」
陽華が驚いて目をパチクリさせた。義勇は立ち上がると、背を向けながらこう言った。
「すまない。今日はもう帰る。」
「えっ、ちょっと待ってぎゆ…」
引き留めようとする陽華の声も聞かず、義勇は足早にその場から立ち去っていった。
残された陽華は放心状態で、去っていく義勇の背中を、ただ見つめていた。
次の日の朝、鬼殺隊本部に義勇の姿はなかった。
ー異変 完