第17章 炎柱
「あなた、煉獄家の人でしょう?」
いきなり綺麗な顔立ちの、初めて会った女子隊員にそう聞かれ、煉獄杏寿郎は驚きの表情を浮かべた。
「あぁ、そうだが…、それがどうした?」
杏寿郎の言葉に、その少女は目を耀かせた。
「代々、炎柱を輩出してる、産屋敷家の次に歴史の古い一族、煉獄家!!」
その少女は、ずいっと杏寿郎に近づくと、
「本物に会えるなんて、感動!!」
そう叫びながら、身体を震わせた。
突然の出来事に、大きな目をぱちくりとさせる杏寿郎に、少女の隣に立っていた、端正な顔立ちの黒髪の少年が言った。
「いきなり、驚かせてすまない。こいつは鬼殺隊ヲタクなんだ。」
杏寿郎が、鬼殺隊に入って数年目の合同任務。
共に行動したのは、年の近い少年と少女、二人の隊員だった。二人は同門だと言う。
少年の方は冨岡義勇といい、男目に見ても眉目秀麗な顔立ちの、寡黙な少年だった。
少女の方は氷渡陽華と言った。少年と同じく、整った美しい顔立ちをしているが、暇さえあれば日々、鬼殺隊の歴史を追っていると言う変わり者で、煉獄家に興味津々だった。
「煉獄家には、歴代の炎柱が残した手記があるって聞いたことがあるんだけど、本当なの?」
目的地に向かう道中で、杏寿郎の前に立って、覗き込むようにして聞いてくる陽華に、少し戸惑いながら、杏寿郎は答えた。
「あぁ、確かにある。」
その返しに、陽華はワクワクした表情で、杏寿郎を見つめるとさらに問いかけた。
「それって、見せて貰えない?」
陽華は期待に満ちた目を向けると、杏寿郎を少し困ったように、目を見開いた。
「いや、いきなり言われても困るな。別に門外不出というわけではないが、…今は…父上が…、」
言葉を濁しながら答える杏寿郎に、義勇が気を遣って陽華を制した。
「陽華、その辺にしろ。それぞれ事情と言うものがあるだろ。」
陽華は残念そうに「はーい。」と答えると、目的の山に向かって歩き出した。その後ろ姿を少し申し訳無さげに、杏寿郎は見送った。