第1章 彼とうまいもの
「オネーさんの名前教えて?」
「毒島です」
「そんなのわかってるよ、下の名前!」
「です……」
「は何でヨコハマに?」
早速呼び捨てするんだ。
「用があって」
「用ってなあに?」
「色々、です」
「ふーん」
「飴村さんはなぜヨコハマに?」
「乱数でいいよ!僕も色々~!」
私が答えないからそっちも答えないってことか。
この子は何なのだろう、世話好き……とも思えない。
理鶯達のことを探るつもりなのだろうか。
「どうして初対面の私を?」
「が可愛かったからに決まってるじゃーん!僕可愛いオネーさん大好きなんだよね!」
それに!と話を続ける。
「僕服を作ってるんだけど、モデルやらない?」
「はい?モデル??」
「みたいな人探してたんだよね、考えてくれない?」
「お断りします」
「即答しないで考えてよー!」
この子とはあまり関わらない方がいい気がする。
ああだこうだ話しているうちにレインボーブリッジが見えてきた。
もうそろそろ着く。
「シナガワで降ろしてください」
シナガワに住んでいるわけではない。
最寄り駅がバレるのがなんとなく嫌でここから適当に近い場所を指定した。
シナガワに到着し、ありがとうございましたと頭を下げて車を降りようとした時、飴村さんが名刺を渡してきた。
「はいこれ、僕の連絡先!気が向いたら連絡してねん!」
車を降りて一礼する。
「まったねー!」
車のドアが閉まると直ぐ様発車し去っていった。
彼はシブヤ・ディビジョン Fling Posseのリーダー。
こんなところで会っちゃうなんて。
嵐が過ぎ去ったような気持ち。
腕時計を見ると16時になろうとしていた。
今日はもう帰ろう、疲れちゃった。