第1章 彼とうまいもの
改札が見えたところでICカードを取り出そうとした時「オネーさん!」と後ろから声がした。
私じゃないかもしれないけど一応振り返ってみる。
振り向くとピンク色のショートヘアーの子とがっつり目が合った。
この子確かシブヤの……
「オネーさん、軍人さんと一緒にいたよね?知り合いなの?」
軍人って理鶯のこと?
「あの、もしかしてシブヤ・ディビジョンの飴村乱数さん?」
「僕のこと知ってるのー?あはは、僕そんなに有名なんだー!」
有名は有名だけど、理鶯の姉である以上情報は入ってくる。
「ねーねー、軍人さんとはどういう関係なのー?彼女なの?」
「彼女?ははは、私は理鶯の姉です。お世話になってます」
「お姉さんいたんだ!意外……。ふーん」
な、なに?なんか急に顔色が変わったような。
「お姉さんはこれからどこ行くところなのー?」
「東京に戻るところです」
「戻る?ヨコハマに住んでないの?ふーん、じゃあ僕の車に乗っていきなよ!今からシブヤに帰るところなんだ!」
「え?いえ、電車で帰るので大丈夫で……っ!」
言い切る前に飴村さんは私の手を掴んで「こっちこっち~!」とグイグイ引っ張っていく。
何なのこの子!
華奢に見えて案外力強い。
あれよあれよと改札から遠ざかっていく。
駅を抜けると白いワゴン車が停まっているのが見えた。
「じゃーん!これは僕の車だよ!さっ、乗った乗った!」
飴村さんが窓をノックするとドアがスライドして開いた。
中に誰かいるんだ。
ちらりと運転席を見ると強面の男性が座っていた。
「乱数さんそちらは?」
「知り合いのお姉さん、途中まで乗せていくことになったんだ」
「いや、あの……本当にいいんですか……?」
「いいの!乗っていってよ!車出して」
どうみても飴村さんよりはるかに年上に見える男性は敬語で返事をした。
どういう関係ないなのだろう。