第1章 彼とうまいもの
「もっと早く電話していれば、あの時捕まえられたかもしれないね」
「逃げ足の速い奴らでしたよ、あれはこちらのミス、失態でした」
警察が到着する前に二人組は逃走してしまい、素性はすぐにわかったけど居場所が特定できないでいた。
私がヨコハマを離れてトウキョウに出てきた理由もここにある。
「左馬刻くんにお礼言わなくちゃ」
警察署に到着し取調室へ案内された。
銃兎くんがドアをノックして扉を開ける。
「面通しです」と声をかけ、私と理鶯へ振り向きどうぞと中へ案内した。
左隣の部屋で見知った顔の男が刑事さんと向かい合って座っていた。
すぐにわかった、あの男だと。
20代後半くらいに見える。
「この窓はマジックミラーになっていますから安心してください、向こうからは見えていません」
あの時の記憶が甦る。
喉がヒュッと縮まる感覚。
「……この人で間違いありません」
自分の声が震えてることに気付いた。
落ち着け私……壁越しなんだから……
ふわりと左肩に暖かくて大きな理鶯の手が添えられた。
「大丈夫か?」
「うん……」
「ありがとうございます、それだけ聞ければ十分です」
察したのか銃兎くんは扉を開けて私達は外へ出た。
「さん大丈夫ですか?少し座って休みましょうか」
「何か飲み物を買ってくる」
二人がすごく気を使ってくれている。
「大丈夫!平気平気」
笑顔で答えたが、二人の顔は真顔である……。
「飲み物買ってくる」
「え……り、理鶯!」
大丈夫だから!と言おうとすれば、理鶯がくるりとこちらを振り返る。
「自販機はどこだ?」
「……」
「……あっちにある、椅子もあるから一緒に行こう」