第1章 彼とうまいもの
「おせーんだよ」
会って最初がそれですか左馬刻様、まあ予想はしてました。
すみませんね。
「おい理鶯、シスコンも程々にしろよ」
左馬刻、お前が言うのか?
そんな表情をする銃兎くんと以心伝心した気がする。
「さん、御足労頂きありがとうございます」
「もしかしてこれに乗るの?」
「ええ、署までお連れしますよ」
目の前にはクラウンが停まっている。
覆面様なのか自家用車なのかは知らないが気が引けた。
「どうぞ、乗ってください」
そう言いながら後部座席のドアを紳士的に開けてくれた。
おずおずと乗り込めば、「小官も行く」と理鶯が乗り込むとドアが閉まった。
「あ?また待たせんのかよ、だったら後で呼べや」
「まあそう言うな左馬刻、お前も来るだろ?」
「なんで俺様まで行かなきゃなんねぇんだよ、終わったら連絡よこせ」
車内には二人の会話は聞こえてこないが、左馬刻くんはタバコを片手に何処かへ行こうとしている。
車に乗る気はないみたい。
それを無視するように銃兎くんは運転席に乗り込んでエンジンをかける。
「全く、気になるくせに」と呟きながら車を前進させた。
少し走った所で銃兎くんが口を開く。
「今から見てもらう男ですが、見つけたの左馬刻なんですよ」
「え?そうなの?」
窓の外を見ていた理鶯が銃兎くんに目線を移した。
「左馬刻も動いていたか」
「“左馬刻も”って理鶯も探してたの?」
「理鶯は私達に情報提供してくれたんですよ、左馬刻は個人的に探していたようです」
そうだった、あの日左馬刻くんがすごくブチギレていたの覚えてる。
あれは左馬刻くんに対する逆恨みから始まった事件。
火貂組のシマで事件を起こした男二人組が左馬刻くんにシメられたのがそもそもの始まりだった。
仕返しとして二人組は、左馬刻くんに手を出そうとしたけど、勇気が無かったのか妹である碧棺合歓ちゃんに狙いを定めた。
それを先読みしていた左馬刻くんにより合歓ちゃんは無事だったのだけど、
二人組は狙いを変えて理鶯の姉である私を標的に変え探しだし、事件当日私は拉致された。
隙を見て銃兎くんに電話したことで事なきを得たのだけど…。