第1章 彼とうまいもの
駅に戻ると銃兎の車が見えてきた。
助手席のドアを開けて車に乗り込む。
「遅いぞ左馬刻、さんはもう帰ったぞ」
こいつはなんでイチイチの報告をしてくるんだ。
そんなことより、乱数のことが気になる。
ちゃんと家に帰るんだろうな……。
さっきの記憶が甦り、また苛立ちが募る、そしてキレた。
「おい銃兎。なんでアイツ電車で帰ることになったんだよ。お前が呼び出したんだろ?お前が送れや!!」
銃兎の胸ぐらに掴みかかり、勢いよく運転席の窓に叩き押し付けた。
「くっっ…急に、な、何すんだっっ!」
あ"あ"あ"あ"あぁぁ!??
とドスのきいた声で威嚇するように叫んだ。
「俺はっ、家まで送ると言ったっ!……くっ、さんが、お前を待たせるのはっ、悪いと断ったんだっっ……!」
「どうした左馬刻、落ち着け」
後部座席から理鶯が俺の腕を掴み銃兎から離すように宥める。
仕方なしに胸ぐらを離してやった。
隣でゲホゲホと銃兎が噎せている。
「姉貴の心配をしてくれるのは嬉しいが、銃兎は悪くない」
「見境なく手を出すのやめろ!!しょっぴくぞ!」
チッと舌打ちをしてタバコを取り出した火をつけた。
「なんなんだよ全く」と崩れた胸元を直しながら銃兎は窓を開けた。
「そんなにカリカリするな、腹が減っているのか?小官が何か作ってやろう。待っていろ、具材を捕獲してくる」
「「えっ?」」
この空気をものともしない理鶯。
「り、理鶯別に腹は減ってねぇよ」
「お腹空いたから喧嘩してるわけじゃないんですよ、ほら喧嘩するほど仲が良いって言うでしょう?ははは」
「そうか、なら安心した」
ふぅー、またネズミやらなんやら食わされるところだった。
「はぁ……、テリトリーバトルに向けて今後の話をしておきたいんだ、場所を変えよう」
エンジンをかけて車は走り出した。
話し込んでいるうちに気づいたらもう遅い時間になっていた。
二人と解散したあと、不意に訪れる不安。
そうだ、は無事に帰れたのか。
帰宅すると合歓が出迎えてくれた。
「おかえりお兄ちゃん」
「ただいま」
「お風呂先に入っちゃってもいい?」
「ああ、構わねぇよ」
合歓が風呂に入ったのを確認して、スマホをタップし電話帳を開く。
“毒島メイソン”