第1章 彼とうまいもの
『もしもし、どうしたの?』
朝ぶりの声だ。
珍しいやつからかってきたと困惑しているのが伝わる。
「無事に帰れたかよ」
『え?うん、もう家だけど…なんで?』
「あ?なんでじゃねーよ、お前乱数の車に乗ってただろ」
めんどくさいからたまたま見た事にした。
駅で見たこと追求してみれば、何事もなく降ろしてくれたようだ。
しかし、初めて会ったけど悪い人ではないとかなんとか、あーだこーだ言いやがる。
「お前は学ばないタイプか?知らねぇやつにノコノコついていくんじゃねぇよ!」
何しにヨコハマ出てきた思ってんだ、今日ぐらい大人しくしとけよ。
『そんな怒らなくても!知らない人ってわけじゃなかったし……』
「は?お前はポンコツか?黙って銃兎に送られてれば良かったんだよアホ。変な気使いやがって」
何が俺を待たせるのは悪いだ、そういうとこなんだよお前の性格。
乱数に連絡先教えてもらったらしいが、関わるなと念を押した。
何やらかすかわかんねぇ。
とりあえず、真っ直ぐ帰れたならそれでいい。
切る旨を伝えれば『待って!』と聴こえてくる。
「んだよ」
『銃兎くんから聞いたんだけど、犯人見つけてくれたの左馬刻くんなんだってね』
あのクソうさ公、また余計なことを…言わなくていいっつーの。
「今日お礼言いたかったんだけど会えなかったから……ありがとうね」
ありがとう?
なんだよそれ……急に言ってくるんじゃねぇよ。
心臓うるせぇクソが。
『聞こえてる?』
慌てて「おう」と答えた。
『今度お礼させて』
「なんだよ、雪でも降んのか?」
『失礼な!ご飯でも奢るよ』
「ふっ、うまいところ連れていけよ」
『探しておきます』
「ああ、また連絡するわ。じゃあな」
電話を切ると、後ろから合歓の声がした。
「お兄ちゃん顔ニヤけてるよ?」
いつの間に居たんだよ、ニヤけてる?んなわけ……
指摘されて思わず真顔に戻る。
「ニヤけてねぇよ」
「ニヤけてた、何か楽しそう。良いことでもあったの?」
「……まあな」
「え!なになに??教えて!」
「今度な」
お兄ちゃんのいじわるー!
頬っぺを膨らませてすねる合歓は可愛いが、正直の声が頭の中でリピートしちまってた。
二人で飯行くのなんか初めてだ。
何食わせてもらおうかな。