第6章 恋歌プレリュード
『それは…気のせいなんじゃないの?』
「は?」
『だって、アズールも言ってたじゃん。あたしの声には他人を魅了して操るって…自分じゃそんなこと全く分からなかったし信じられないけど…。仮にそれが本当なら、あんたも…』
「ウナギちゃん」
あたしの身体に巻き付いて抱きしめていたフロイドが、あたしの事を呼んだと思ったら、彼の手が頬を伝って引き寄せた。水の中だからか、ちょっとの力で引き寄せられたら身体がフワッと浮いて簡単にフロイドの顔に近づいて彼の口にぶつかった。
「…オレ、今ウナギちゃんに命令されてチューしてない。オレがチューしたかったからした。オレ全然操られてないし、ウナギちゃんの声もだけど顔も髪もおっぱいも実は可愛いとこあるのも全部好き」
ぶつかった口から少しだけ離れてフロイドは恥ずかしげもなくそんなことを言う。きっと今のあたしは、自分が思って居る以上に顔が真っ赤だと思う。だって、あたしの顔を見てフロイドが吹き出ししたから。
「あはっ。なぁにウナギちゃん、ゆでだこみたいに真っ赤だよ~。やっぱ可愛い~大好き」
と、こいつは懲りずに恥ずかしい言葉を並べて頬からそのままあたしの肩に手をまわしてギューっとハグをする。
さすがのあたしも、ここまで率直な言葉は初めてで少し困惑した。でも、フロイドの言葉は依存している人のそれと同じ感じがしてならなかった。
『…でもやっぱり、あたしはまだ自分の事も分からないから…』
「えぇ~オレがこんだけ好きなのにまだそんなこと言うの?ウナギちゃんいい加減ウザい。」
『だって…!』
「あ…あぁ~そっか~。」
『えっ?何よ…』
ハグをしてくるフロイドから離れようとしても頑なに離れてくれないフロイドの顔を押すと、突然何かを思い出したようにフロイドはハッとした。
そして、彼の顔を抑えているあたしの手の上に自分の手を重ねてニヤリと笑う。
「オレが、ウナギちゃんを本気にさせればいいだけじゃん?」