第2章 幻影シンガー
『あ…あたしの歌が"まぁまぁ"だと!?テメェ…そのデケェ耳腐ってんのか?!あ゛ぁ!?』
「おぉ怖ぇ、ひょろっちい草食動物がよく吠えるな。」
『うっせぇ!いいから降りて来い!!蹴り飛ばしてやるよ!!』
今まであたしの歌を聞いて「まぁまぁ」なんて言うやつはいなかった。初めて言われたそんな屈辱的な言葉!!
「あぁ、行ってやるよ」
と、木の上で寝そべっていた猫耳男は軽い感じで降りてきた。
くるっと一回転してあたしのそばに降りてきた。遠くだったからさっきは大口叩いてしまったがいざそばに来たらこいつ想像以上に背が高くて迫力がすごかった。
「んで?俺にどうするって?」
『うっ…、あ…あたしの歌をまぁまぁって言って、おまけについさっき言ったばかりの事忘れるなんてやっぱ耳腐ってんじゃないの?』
「…さっきの歌、聞いたことはねえがなんか胸糞の悪い歌だった。その上での評価だ」
『あっそ、ならあんたのために歌ったわけじゃないから関係ないか。』
「…だが、お前の声は嫌いじゃねえ。」
『はぁ?まぁまぁとか言って…!?』
むくれてそっぽを向いていて、気が付いたらそのデカい褐色男は目の前に立っていた。翡翠色の切れ長の目がまっすぐあたしを見ていて背中がゾクッと寒くなった。
「それに、俺に噛みついてくる威勢のいい女も嫌いじゃねえ。」
『ヒッ!?』
男はあたしの肩に触ろうとしてきたため思わずそれを払った。
払われた手を男はじっと見つめて、なぜか鼻で笑った。
「なんだよ、威勢よく吠えてたくせに案外いいメスの顔するじゃねえか」
『はぁ!?』
「…悪くねえ」
と、男の払われた手が急にこっちに伸びてきてあたしの後頭部を抑えて強引に引き寄せてキスをしてきた。