第2章 幻影シンガー
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音楽室から教室に戻るまでのほんの数十メートルの間で、もう何人もの他寮生から話しかけられた。
さっき歌った時窓が開いていて、あまりに堂々と歌ってしまったせいで音楽室から不特定多数の場所にまで歌が届いていたようで・・・
「さっき聞こえてきた歌ってあんたのだろ?」
「すっげぇ綺麗な歌だったぜ」
「なぁ、今度校内を案内してやろうか?」
「なんなら、うちの寮に来ないかい?君のような美しさなら…」
今まで陰口や悪口は言われ慣れていたけど・・・
この所謂・・・口説くっていうの?には慣れてない・・・
常套句の「人間に…(ry」と言っても一向に聞く気配がない。
と、ついにその中の1人が腕を掴んでくることまでしてきた。
あたしは、さすがにその行為に虫唾が走った。
「なぁ、いいだろ?」
『おい…何勝手に触ってんだよ…』
「は…?」
『触んなって言ってんだよ!!』
と、腕を掴んでくるどこの寮生かも分からない人の横っ腹を蹴り飛ばした。どうも昔からムカつくことがあると足が出る癖があるのだ。横っ腹を蹴られた男はそのまま吹き飛んで廊下の壁に激突した。
「なっ…」
『ったく、うっぜえ…』
小さくつぶやいて教室に向かうと、背後の声はまた陰口に変わった。
「なんだよアレ…女のくせに」
「女っぽいのは声だけかよ」
「だが所詮は女だろ?押し倒せば一緒じゃねえか?」
と、また俗っぽいことを言い始めた。
あぁもう首周りが痒い・・・なんでどこの男もこんなもんなんだよ!
・・・父さんとは、大違いだよ