第1章 彼と私
かかしサイド
俺はとりあえず、アンナにお風呂をすすめた。
混乱しているとはいえ、アンナはおそらく俺より年上だろう。
だが、それを微塵にも感じさせないほど彼女は小さくなっていた。
お風呂上りには少し表情にも余裕がでたか。
と、思いきやお腹の虫が盛大に鳴り響いている。
さすがに笑えた。
材料の都合で簡単なものしかできなかったが、それでも彼女はとても喜んで食べてくれた。
どこからともなく落ちてきた初対面の相手に、お風呂をすすめて、料理を振る舞い、なんて変な日だ…と思った。
でも、おいしそうに食べる彼女をみて、そこまで悪くないとも思えた。
早く休むことを進めたが、彼女はベランダでぼんやりしていた。
俺もこの状況にすんなり眠れるわけではない。
だが、彼女にもこれ以上気をつかわせたくなくて寝たふりをした。
アンナが部屋に帰ってきた。ようやく気がすんだか。
俺の髪の毛に彼女の手が触れて、謝罪とお礼を言われた。
俺を起こさないようにしてくれていることと、こんな状況でそんなことができることに大人だと思った。
久々に俺の心がじんわりと温かくなったのを感じた夜だった。
‥‥あれからしばらくして、アンナの気配が俺のそばからまったく離れない。
ゆっくり目を開けると、俺のそばで座って寝ている。
こんな日だったからこそ心細かったんだろう。
そっと布団に運んであげた。