第5章 水の音
「早瀬さん結構酔ってるから、すぐに上がったほうがいいスよ。」
ドアの向こう側から声がした。
なるほど、そうだった。
お風呂からあがると、酔いが回った頭にはちょうどいい明るさの部屋が迎えてくれた。
黒崎君はテレビをつけてソファーに座っているようだが、コンタクトをはずした私にはよく見えない。
とん、と段差を降りるとくらりと脳みそが回転したように感じる。
うわぁ・・酔ってんなぁ・・なんて言いながら雪菜はソファー側のベッドのふちに腰をかけた。
「なにか飲みますか?」
「うん、お水欲しい。何か見てるの?面白い番組やってる?」
「え?あぁ、そうか見えてないのか。AVッスよ。」
急にTVの音量が大きくなったのか、女の子のあえぎ声が聞こえてくる。
「ちょっ、音・・大きくしなくてもいいです。」
「ははは、ちゃんと分かるようにしてみました。」
黒崎はなんでもないように笑い、ミネラルウォーターの蓋を開けて、雪菜に渡した。
思っていた以上に喉は乾いていたみたいで、一気に半分くらい飲み干す。
ふぅー、と息を吸い込むと頭が少しはっきりした気がしてきて、ふとお風呂での話しの続きを思い出した。
「触れると、その人の後ろめたいことが見えるんだって。」
改めて考えてみると嘘のような不思議な話。
「は?なんの話っスか?」
「志水さん、そういう力があるって言ってたんだよね。」
手のひらを見つめてみる。
「…それ、信じてんですか?」
しらけたように答える黒崎くんの声。
静まりかえった部屋に、突然テレビから、いくっ、いっちゃう!!なんて声が聞こえてくる。
テレビはかなり盛り上がっているようだ。
それが本当か嘘なのかなんて本人以外の誰にも分かりはしないけれど。