第4章 そこから見えているセカイ
「あの時の神代かなり必死でしたからね。」
「うん、怖かった。」
「まぁ、早瀬さんの口からいきなり合コンなんて単語が出て来たからびっくりしたんでしょうけど。」
「・・・ホント、真面目すぎなんだって。お兄ちゃんに怒られた妹の気分だったよ。」
「お兄ちゃん?」
「そう、神代君てお兄ちゃんみたいじゃない?うちはお父さんは合コンに行くなとかそういうこと全く言わない人だから、しっかりした兄が居たらあんな風なのかなって思って。」
ハハッ・・と笑った後、小さな声で黒崎がつぶやく。
「・・・・・こうして、真実は覆い隠されていく。・・・か。」
「えっ??」
黒崎の声は車内の音楽にかき消されて雪菜の耳には届かない。
「ヒトは・・決して出られない自分自身の世界の中に生きてるんです。自分もその中にいて、相手もその自身の世界の中にいる。」
黒崎君がボリュームのボタンをくるくると回すと、車内の音楽はかすかに聞こえるほどのBGMとなった。
「急に、難しいこと言いだしてどうしたの?」
「自分の世界から相手が見えていたとしても、そこには測れない距離があるんですよ。」
「きょり・・?」
「そう。たとえば今、早瀬さんんから僕が見えると思うんですけど、それは早瀬さんの世界から見えているだけの僕であって、本当の僕ではないんです。」
左手だけハンドルから手を離して、私との境目にスイと指で線を引く。