第4章 そこから見えているセカイ
「で、ホントの予定は?」
ガラスの向こう側、神代くんが手を振りながら校内に消えていくのを二人で見送る中、黒崎くんの声が後ろから飛んできた。
振り返ると、ハンドルにもたれかかりながらじっとこっちを見ている。
「有香達と飲み会という名の合コン。6時から。」
神代くんは居ない。
雪菜は素直にそう答えた。
「そんなことだろうと思いましたよ、僕よかったら送っていきますよ。」
黒崎はなにごともなく静かに笑う。
初めからきっと感づいていたのだろうと分かっていた。
「ありがとう。じゃあお願いしちゃおっかな。」
「買い物付き合ってくれるお礼です。」
雪菜は黒崎との買い物が好きだった。
2人は同じものに興味を示し、同じものを好む。
小物などのブランド、好きな食べ物。
不思議なほど「好きなもの」が似ていた。
コンビニに行っても同じ味のチュッパチャップスを買い、同じ弁当と同じ飲み物を買うなんてこともある。
初めはお互い驚いていたが、最近では日常的になっていた。
「このクマ!!可愛くない??」
そう言って雪菜が手に取ったのはビビットピンクでちょっとロックテイストなクマのぬいぐるみキーホルダー。
黒崎にむけてぶんぶんと振って見せる。
「あー、それやばいですね。めちゃくちゃかわいいです。」
向こうのほうでライターを物色していた黒崎がそのまま手に丸いものをもって雪菜の傍に来る。
2人の距離は近い。
「この子連れて帰ろっと。」
「あ、こいつもう一匹いるじゃないですか。僕も買おう。」
そう言って黒崎も残り1匹になったクマに手を伸ばした。
「お揃いになっちゃうよ?黒崎くんは隣の緑色のうさぎにしたら?」
「嫌ッスよ。早瀬さんがうさぎにすればいいじゃないですか。」
6体ぶら下がったうさぎがなんとなくかわいそうに
見えて、私は話題を変える。
「その丸いの、ライター?」
黒崎くんの手が広げられると、ころんっとビリヤードの球を模したライターが出てきた。
「可愛くないですか?」
にっと笑いながら差し出してくる。
「可愛い。」
真っ黒の陶器でできた球体には9と書かれている。
「ライターすぐになくなるから、コイツ車に入れておこうと思って。」