第11章 束縛
「なんでも・・・ない・・よ」
黒崎君の刺激に流されないようにして答えた。
頭の中で困ったように笑うセイが消える。
そっと、黒崎君から離れてベッド上に座った。
ベッド横のカーテンを開く。
ひんやりとした空気が肌にかかり、月明かりがまぶしい。
「黒崎君は・・・誰かの事を考えたりする?」
背後で黒崎君が立ち上がる音がする。
「僕は誰のことも考えない・・ですよ。」
「…そっか…。けど、黒崎君の事を想っている子が居るかもしれない。」
黒崎君は黙っている。
「ほら、こないだのファミレスの時さ・・・神代君が私と黒崎君が付き合ってるんじゃないかって誤解したときあったでしょ。そのとき思ったの・・・」
そう、あの時雪菜が感じたこと。
黒崎君と自分の距離の近さ。
普通の友人以上に距離が近いことは十分に分かってるつもりだ。
けれど、自身はともかく黒崎君に迷惑がかかっているとしたら・・・?
黒崎君の事好きな人がそんな風に誤解をしたら?
私の存在はとても『いけない』ものなのかもしれない。
「僕の話・・・聞いてますか?」
振り返ろうとして、急に肩を強く押されベッドに倒れる。
月明かりに照らされた黒崎君の表情は、背筋がぞくりとするほど無表情で・・・
どうして急に彼がそうなったのか、瞬時に考えるが思いつかない。
「僕は誰にも好きになってもらわなくてもいいですし、誰かと付き合う気もさらさらないんですよ。」
淡々と話す言葉のどれも冷たく凍りついている。
「・・・怒っているの?」
そこでやっと黒崎君はふっと表情を緩めた。
「前も言ったけど早瀬さんに、じゃないです。」
声はどんどんと低くなっていく。
全く熱のない、絶対零度のような冷たい声。
「余計なことを言った神代に・・ね。」